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せっかくのオフだというのに、冴はタブレットでひたすら画面に目を走らせていた。表示されているのはどうやらテキストのようだ。冴も運動に一途なようでいてクレバーな面がある。読書にでも目覚めたのだろうかと思って尋ねれば、返ってきたのは意外な答えだった。
「何読んでるの?」
「夢小説」
冴の口から出るとは思わなかった言葉ランキング上位には入るだろう。夢小説とは推しがいる女の子が読む物ではないのか。いや、偏見はいけない。冴だって「推し」ができたのかもしれない。
「誰の?」
「俺の」
私は目を丸くした。流石に誤解が生まれていると察したらしい冴が、事情を説明してくれた。
冴はサッカーファンだけではなく、日本の女の子にミーハー的人気がある。彼女達が書いた夢小説に、私の名前を入力して読んでいるのだそうだ。「あいつらなかなか上手いこと書きやがる。面白い」と言う顔は本気で楽しんでいるようだけど、絶対に作者の意図した楽しみ方ではないだろう。それどころか、冴は作者に直接干渉しているらしかった。
「書いてるのはどうせ俺のファンだしな。命令するか金握らせてできるだけ名前に近い設定にさせてる」
作者が意図した夢小説ではなく、冴自身がお金を払ってリクエストしているのだ。自分の夢小説をリクエストする男など聞いたことがない。それにどうして直接私に構うのではなく、私の夢小説にお金や時間を費やすのだろう。
「そんなに私が好きなら私にお金使って!?」
私が言うと、冴はタブレットをテーブルへ伏せた。急に辺りの静けさが戻ってきたように感じる。
「いいのか?」
冴は冷徹な瞳で私を見た。そういう鋭さをもって、小説のあらすじを考えているのだろうと思った。
「お前、金で買えるのか?」
冴が私に直接構わず小説をリクエストしていたのは、恐らく私にやらせるには抵抗があることだからなのだ。私は漸くそのことに気付いた。お金を払いさえすれば何でもする、となれば冴は私にどんなリクエストを投げるかわからない。選択を間違えてしまったかもしれないと思った時にはもう遅い。冴は試すような瞳で、私を見ていた。
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