▼ ▲ ▼
仕事で外出している時だった。普段はカウンターの向こうにしか見ない、おにぎり宮の店主を見つけた。彼もこちらに気付いたようで、口角を上げてにやりと笑った。その視線が私の隣にいる同僚を見ていたような気がするのは、勘違いだろうか。
「今日のお弁当美味しかった?」
すれ違いざま、彼は数秒立ち止まってそう言った。私達は会社での昼食を終え、取引先に向かうところだった。男性の同僚が、お前達はそんな仲だったのかという風に私達を見比べていた。
「何でわざとあんなこと言ったんですか!」
終業後、私はいつものようにおにぎり宮へ行く。あれから、私は特に弁明をしなかった。おにぎり宮の店主と同僚は赤の他人であるし、慌てて弁明するほどでもないと思っていたからだ。必死になって恋愛の気配を否定するなど、恋愛慣れしていない思春期の学生のようだ。なんとなく、店主はそれを狙っていた気がする。
「あんなことって?」
素知らぬ顔で尋ね返した店主に、私は歯切れ悪く答える。
「同棲してる彼氏みたいに……」
「ただお客さんに感想聞いただけやん」
「紛らわしいんです!」
おにぎり宮は、先日お弁当の販売を開始した。私が買ったのはそのお弁当であり、決して店主が私の家にいてお弁当を作ってくれたわけではない。けれど、同僚はそう誤解しているのだろう。
店主に客の人間関係を引っかき回すような趣味があると知らなかった。私と同僚がいい仲だったわけではないのでどうにもならないけれど、私は同棲している彼氏がいると誤解されたままだろう。わざわざ否定するのもおかしい気がする。
「モテる男はな、女を狙ってる男の目なんてすぐにわかるんやで」
だとしても、何故店主が同僚の邪魔をするのだ。私は不満を抱きながらおにぎりをかじった。文句がないほどにおいしいのがまた悔しい。
/kougk/novel/6/?index=1