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「これ、持っとけ」

 仕事から帰宅してすぐ、先に帰っていた聖臣から出されたものは離婚届だった。

 状況を整理したい。私達は先日同棲を始め、籍も入れたばかりの新婚だ。新婚でなければ離婚届を出されてもいいというものではないけれど、こうも立て続けに届を出されると入籍は何だったのかと思ってしまう。私は何かいけないことをしてしまったのか。それとも、最初から離婚目当てで結婚したのか。一体何のために。目まぐるしく頭を回転させる私をよそに、聖臣は普段通りの調子で告げた。

「俺に嫌なことをされたらすぐに出せ」

 離婚届には、既に聖臣の署名と判がある。私が記入すればすぐに離婚が成立する状態だ。これは、私の意思を尊重するという聖臣なりの愛だったのか。それとも、私に嫌なことはしないという聖臣の自信の表れなのか。答えはどちらでもなかった。

「お前を一生大事にするっていう、俺なりの誓い」

 聖臣はそう言って口元に手をやったが、マスクがないことに気付いて気まずそうに顔をそらした。恐らく、照れている。聖臣はいつ私に捨てられてもいいほどに自分を追いつめて私との生活を送っていくということだ。慎重と言えばいいのか、大胆と言えばいいのか判断に困る。でも聖臣が私を本気で愛していることだけは確かだ。自ら離婚の危機に近付いてまで、私を尊重しているのだから。

「私も聖臣を愛してるから離婚届書いとく」

 そう言って聖臣に抱き着くと、聖臣は私の頭を撫でた。言っていることとやっていることが逆でもこれが私達なりの愛の形だ。