▼ ▲ ▼
「離れた父親と文通をするのに、練習相手になってくれないか」
高校の卒業式の後、牛島くんにそう引き留められた。私は牛島くんが卒業後どこへ行くのかも知らなかった。バレーでプロになるか、強い大学へ進学するのだろうが、行先は私が春から住む場所とそう離れていなかった。それならば普通に友達になった方がいいのでは、と一人上京する身で思ったが、牛島くんは文通にこだわっているようだった。
「それしかお前を引き止める方法が浮かばなかったんだ」
牛島くん――若利は、そう言って小さく笑った。彼が笑みを見せてくれるようになったのは、同棲して少し経ってからだ。文通を重ね、次第に会う約束に流れ、私達は付き合った。最初から好意があるならそう言ってくれればいいのに、素直に言えないのが若利らしいところなのだろう。
「LINEでいいのに」
私が若利の個人的な連絡先を知ったのは、実際に会う話になってからだった。待ち合わせをするのにスマホの連絡先が必要だろうとなり、私達は実に数年もの間文通をした後アプリで繋がったのだ。最初からこうしていれば、もう少し早かったかもしれない。
「それは誰でも知ってるだろう」
私が誰にでも連絡先を教えているかのような言い方に、少し反抗心を覚える。若利は私の視線を無視して、満足げな表情を浮かべた。
「お前の住所は、俺と家族しか知らない」
確かに、アプリの連絡先と違って住所は限られた人にしか教えていない。誇らしげな表情を見て、冷静に見せかけて意外と独占欲が強いよなと思った。そうでなければ、バレーで常に上を目指すことへの執着を続けられないのかもしれない。知り合った当時バレーしか見えていなさそうだった若利の世界に今は私がいることを、嬉しく思う。
「今は住所同じじゃん」
「そうだな」
今、文通をするならば。毎日顔を突き合わせていて、私は何と書くだろう。普段面と向かっては言えない、好きだよと書くのかもしれない。
/kougk/novel/6/?index=1