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中学でアルトリコーダーを使うことになった。大抵の生徒は兄姉からお古を譲り受けるのだが、一人っ子の私は貰い先がいない。ということで、家族ぐるみの付き合いである糸師家から貰うことになったのだった。冴はもうアルトリコーダーの授業を終えているし、そもそも日本にもいない。きちんと授業を受けていたのだろうか、ほぼ新品のアルトリコーダーを箱から出してみていた時だった。いつの間にか凛が部屋まで入ってきており、不機嫌そうに壁に背をもたれかけさせていた。
「兄ちゃんのは使うな」
「冴のお下がりを使いたかったの?」
凛は冴が大好きだ。性愛的な意味はないだろうが、冴のお下がりは何でも自分が一番に譲り受けないと気が済まなかったのかもしれない。凛はむっとしたように唇を結ぶと、小さく呟いた。
「そんなんじゃねぇ」
「どっちにしろ、来年は凛が使うんだから」
凛が進学する中学は私と冴と同じだろう。それならば、百パーセントに近い確率でアルトリコーダーの授業を受けることになる。その時私はもう使うことがないから、私と冴のお古は凛に渡るはずだ。
「待てない」
いくら冴が好きでも、お下がりのアルトリコーダーにここまで執着するほどだったのか。私は凛が執着しているのを、アルトリコーダーだとばかり思っていたのだ。それは勘違いだった。
「お前の間接キスでファーストキスが兄ちゃんは嫌だ」
そう言って、凛は瞬くうちに距離を詰め私の唇を奪った。胸倉を掴んで上を向かせるという、なんとも凛らしい乱暴なキスだった。唇が離れてから、私は凛を見上げる。
「凛、これじゃ間接キスじゃなくて本当のキスだよ」
「そうだな」
私は動揺していた。凛にキスをされたことにではなく、凛にキスをされても拒絶感の湧かない自分に対して。それは幼馴染の情から来るものなのだろうか。それとも、私は凛を好きなのだろうか。
ここで告白でもしてくれれば確かめられたのかもしれないけれど、凛は目的は果たしたとばかりに部屋を出て行ってしまった。まったく勝手な奴だ、と許しているあたり、私も好意があるのかもしれない。
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