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遠征で数駅離れた場所へ来ている時だった。先程からちらちらと烏野バレー部一行を見ている女子がいるかと思いきや、彼女は影山に近寄って言った。
「影山先輩は絶対白鳥沢ですよね! 私も白鳥沢目指して頑張ります」
見れば、彼女は北川第一の制服を着ている。さしずめ影山の後輩というところだろう。影山が烏野バレー部のジャージを着ていることは見えていないのか、影山を白鳥沢に進んだと思い込んでいるようだ。影山は気圧された様子で「お、おう」と返す。
「それじゃ!」
挨拶ができて満足だという様子で、彼女は去って行った。残された烏野バレー部一年は、じとりと影山を睨む。
「何で影山嘘ついてるの?」
「あいつの前では落ちたとか言えなかった」
影山にも後輩の前で矜持があるのだろう。「受験どうなりましたか?」ではなく「絶対に白鳥沢ですよね」という言い方をされたら、否定しづらくなるのもまあわかる。
「可哀想、いらない努力して」
月島があざ笑うように言った。この場合月島があざ笑っているのは嘘をついている影山なのだろうが、影山は彼女が馬鹿にされたとばかりに怒る。
「白鳥沢目指して勉強してる奴に烏野までレベル落とせって言う方が可哀想だろうが」
白鳥沢と烏野の学力の差は歴然である。急に目標を下げられたら、彼女の勉強のモチベーションも落ちるだろう。
「受かったらいないのバレるから落ちた方がよかったりして」
「んだとコラ」
影山は先輩として彼女の受験を応援しているに違いない。白鳥沢に進学したという嘘がバレるとわかっていても、彼女に受かってほしいと思っているようだ。そこに男女の情があるのかはわからないが、あったとしてもそもそも影山は自覚できないだろう。もしかして、彼女の前で虚勢を張る時点で充分に彼女を異性として意識していたりして。そう思った山口であったが、言わないことにした。
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