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同じクラス内で付き合ってはいけないなんてルールもあると言うけれど、私と佐久早は付き合ってしまった。特にそれを隠すこともなく、昼休みの間隣に並んでぼうっと教室を眺めている。会話がないからと言って退屈しているわけではない、ということは佐久早との付き合いで知った。
「佐藤さんって綺麗だよな」
いいムードだと思っていたのに、佐久早はクラスメイトの女子の名前を出した。「綺麗」という言葉までつけて。確かに佐久早の視線の先には佐藤さんがいる。
「今目の前で浮気した?」
女子相手に「綺麗」など、気があるととられてもおかしくない台詞だ。それに佐久早はそういう誉め言葉をなかなか使わない。私だって言われたことがないのだ。
「いつも清潔感があるって話だ」
佐久早の「綺麗」は、佐久早の潔癖由来のものらしい。ひとまず恋愛の意味ではないことに安堵するが、そうだとしても彼女の私を差し置いて「綺麗」という言葉を使われるのはいただけない。
「私は綺麗じゃないの?」
私が問うと、「お前は机が消しかすまみれだろ」と冷静に返された。その通りである。対する佐藤さんは、ノートと教科書を重ねた段の角まできっちり揃っている。
「やっぱり浮気じゃん」
佐久早がそういう意味で言ったのではないことはわかっているが、やはり面白くない。私の声にはそんな気配がにじんでいたと思う。
「お前は可愛い」
「可愛い」
私は繰り返す。
「可愛いはお前にしか使わない」
「可愛い」には、潔癖の概念がないだろう。佐久早が私を恋愛対象として見ている証拠だ。可愛いなど言われたのは今が初めてなのに、私は簡単に喜んだ。多分佐久早の思惑通りだろう。でも私のそういう単純なところを佐久早は好きになったのではないかと思っている。
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