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 標的が自宅から出てくる所を狙って待つこと五時間が過ぎた。今日はまれに見る大寒波の日で、立っているだけで体力を奪われる。そんな中ずっと張り込みをしているのだから、今の僕らはさながらアスリートだろう。

 隣を見れば、一緒についてきた後輩が寒さに震えている。張り込みをしている最中、歯を鳴らすような真似は避けているがこの寒気にやられているのは確かだ。僕は上司として彼女にチョコレートを差し出す。

「ほら、食べろ」

 チョコレートはエネルギーを摂取するのに効率のいい食べ物だ。登山などでも使われる。今の僕らは雪山に佇んでいるようなのでもってこいだろう。

 彼女は余程限界だったのか、すぐに包み紙をとってチョコレートに噛みついた。

「すみません、三月にお返ししますね」
「お返し……?」

 そもそも後輩にチョコレートごときで貸しを作った気になっているわけではないが、礼をしたいならこの任務が終わった後にでも言えばいいだろう。わざわざ三月まで待つ意味もわからないし、「お返し」という言葉も引っかかった。

「おい、これをバレンタインだと思ってるんじゃないだろうな」

 チョコレート、お返し、三月。僕の頭はバレンタインの言葉を導き出す。到底寒空の下の張り込み任務に似合う言葉ではない。しかし、後輩は違うようだった。

「逆チョコじゃないんですか?」

 それが当たり前だと言うようにきょとんとしている。僕は大声で突っ込みたくなるのを我慢して小声で囁いた。

「体力回復のためだ! そもそもバレンタインをそこまで意識してるのになんで僕にチョコがないんだ」

 バレンタインを思うなら、先輩である僕にチョコレートがあってもいいだろう。後輩は困り顔で返す。

「降谷さんはそういう浮かれたの嫌いかと……」
「それじゃあ君にチョコを渡した僕が浮かれているみたいだろう」

 僕は浮かれていない。後輩からチョコを貰っていないし、今は張り込み中だ。浮かれるとしたら、三月に後輩からお返しを貰った時だ。なんて、後輩には言う気にならないけれど。

「ほら、任務に戻るぞ」

 チョコレートを食べたわけではないのに、僕の体は少し暖かくなった気がした。