▼ ▲ ▼

「きみ、これと同じものを買ってきてくれないか」

 そう言って煙草の空き箱を差し出された時、私は不審に思った。ここはFBIと公安の合同捜査本部だ。連日の捜査で気が張り詰めているとはいえ、息抜きに煙草が欲しいなら自分の――FBIの部下に頼めばいい。どうしてFBIのエースである赤井さんが、公安の下部構成員に過ぎない私に頼むのだろう。

 とはいえ、赤井さんに頼まれたら断れない。彼には一瞬で人を従えてしまうカリスマ性のようなものがあった。私はオフィスを抜け、近くのコンビニで空き箱と同じ煙草を買う。

「どうぞ」

 これではまるでパシリだ、と思いつつ新品の煙草を差し出した。次の瞬間、赤井さんの表情は男のそれに代わっていた。

「ありがとう。この後ディナーでもどうかな」

 私の勘が間違いでなければ、口説かれている。赤井秀一は誰もが認める魅力的な雄だ。そりゃあ女を口説くこともあるだろうが、パシった直後にすることだろうか。本当に口説きたいのであれば、パシリなどさせないはずだ。赤井さんが私を口説きたいとして、煙草を買いに行かせることに何の意味があったのか。考えた末に、私は一つの結論を導き出す。

「あの、煙草買える年齢か試しました?」
「日本人は若く見える」

 私の予想は当たったようだ。国によって成人年齢は違う。おまけにこのオフィスには、自動販売機の補充や清掃のアルバイトもいる。赤井さんは(恐らく)一目ぼれした私が成人であるかどうかを煙草が買えるかどうかで確かめようとしたのだろう。

「普通に聞けばいいじゃないですか!」
「女性に歳を聞くのは失礼だろう」

 私が公安の構成員に見えず、アルバイトに見えていたならその方がショックだ。若く見られていると喜ぶ場面でもない。とりあえずお詫びにディナーは奢ってもらおう。そして、そのことは降谷さんには秘密にしておこう。私は密かに決意をした。