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 南雲さんはつかみどころのない雲のような人だった。だから、彼の仕事が殺し屋だと言われた時も妙な納得感のようなものがあった。

「金持ちとか悪人を殺すことが多いかな。まあ僕も悪人なんだけど」

 一応殺し屋としての倫理があるということなのだろう。重大告白のはずなのに、南雲さんはまるで天気の話をするように言った。南雲さんが善人だとは思っていなかったので、私にも驚きはない。

「じゃあターゲットから金品とか盗める?」

 そう言った私に対し、南雲さんは「何で?」と顔を上げた。私は前のめりになり、南雲さんに迫る。

「南雲さんが金品をくれて私が転売すれば一儲けできるじゃないですか!」

 案の定、南雲さんは嫌そうな顔をした。だがそれは自分が利用されるからということではなく、別の理由のようだった。

「この間僕のプレゼントは断ったのに?」

 南雲さんは私にアクセサリーやブランドバッグを――金品をプレゼントしてくれている。私はそれらをすべて断っていた。南雲さんから貰うと何か裏がありそうで怖いのだ。それに、南雲さんからせっかく貰ったものをすぐ売ってお金にするのも抵抗がある。

「それはまた別です」

 私が言うと、南雲さんは頭の裏で腕を組んだ。

「確かに売られたらショックかも〜。じゃあこれからは現金で貢ぐね」
「殺しで得た金はいりません!」
「羅生門しようとしてるくせに何言ってるのさ」

 南雲さんは笑う。人を殺して得た金で私に貢ごうとする南雲さんと、殺しの機会を利用して標的から盗んだ金品で稼ごうとする私。私達は結構似た者同士なのかもしれない。けれど、私と南雲さんの間にはまだまだ距離があるのだろう。どれだけ悪に染まっているかのその距離を縮めようとは思わない。どちらかと言えば、人間関係の距離を縮めたいものだ。