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 私が佐久早くんを好きになり始めた頃のことだ。

「好きとか嫌いのタイプってある?」

 下心を隠さず尋ねた私に、佐久早くんは教科書から目をそらさずこう答えた。

「体調管理できる奴はいい」
「じゃあ皆勤賞とったら付き合ってください!」
「とったらな」

 そう言った佐久早くんは私に皆勤賞など無理だと思っていたのだろう。だが私はそれまで一日も遅刻や欠席をしていなかったし、健康には自信があった。毎日確実に学校へ来る私を見て佐久早くんはどう思っていたのだろう。私と付き合うことになってしまうと焦っていた? 実際のところはわからない。佐久早くんはいつも涼しい顔をして、私に「おはよう」と言い続けた。

 そんなある日のことだ。私は鼻水、頭痛、微熱に襲われていた。絶対に風邪だろうが、風邪だと認めたくはない。認めてしまったら、さらに具合が悪くなりそうで。

 マスクをして荒い呼吸で自席に座る私の元に、佐久早くんがやってきた。

「もういい。お前は休め」

 体調が悪い人のそばに佐久早くんが寄って来ることが意外だった。呼気から移ってはいけないので、私は返事をしない。

「無理をしないことも体調管理の内に入る」

 佐久早くんが手にしていたのは早退届だった。冷静に考えなくても、そうするのが妥当だろう。しかし早退をしたら、皆勤賞がとれなくなってしまう。

「佐久早くんと付き合えなくなっちゃう……」

 そう言う私の声は痰が絡んだものだった。佐久早くんは呆れたようにため息をつき、私のペンを勝手に使って早退届を書く。

「それはお前から告白してきた場合だろ。俺から告白すれば問題ない」

 それは佐久早くんから告白するつもりがあるということなのだろうか。確かめたかったけれど、私にはその元気がなかった。佐久早くんは手を引いて私を保健室まで連れて行った。お姫様抱っこではないことは少し残念だったけれど、私は今日早退しても佐久早くんと付き合えるらしい。

「お大事に」

 佐久早くんって、体調を崩す人にこんなに優しかったっけ。そう思いながら、私は早退の準備をした。時には頑張りすぎないことも努力であるらしい。