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中学の時に同じ部活だった影山くんと再会したのは数年後、東京でのことだった。同郷のよしみか、ただの先輩面か、私は影山くんの家からすぐそばだという家を紹介して言った。
「いつでも来ていいからね」
それは本当に、考えがあっての発言ではなかったのだ。今度一緒にご飯に行こうとか、そのくらいの感覚だった。しかし影山くんは、まるで第二の家ができたと言うように私の家に入り浸っている。彼の家の方がグレードは上だろうに、私の家のどこがそんなに心地いいのだろうか。タブレットでバレーマガジンを読んでいる影山くんは、あの頃と変わらない真剣さだった。
「いつでも来ていいとは言ったけど、普通もう少し遠慮しない?」
休みの日に毎週のように尋ねられては、流石に私にも支障が出る。影山くんはタブレットから顔を上げ、無駄にきりりとした表情を浮かべた。
「あれ嘘だったんですか」
「嘘っていうか、社交辞令」
と言っても、影山くんはわからないようだった。社交辞令を理解せずにこの先アスリート界でやっていけるのか、影山くんのことが心配になる。
「今度ご飯行きましょうって言って行ってない人いるでしょ?」
「俺は誘われないので」
颯爽と答えた影山くんを見て、そういえば部活で嫌われていたなと思い出す。私はもしかして、影山くんの唯一の友達になっているのだろうか。いや、流石にチームメイトはいるだろう。今のチームメイトには嫌われていないと信じたい。
「自分の言葉には責任を持ってください」
数か月後、インタビューに平然と答える影山くんを見て彼は社交辞令の何たるかを理解していると知ったのは衝撃的だった。影山くんは私の前でだけ無垢な後輩でいようとしている。成人した大男がぶりっ子したところで可愛くもないだろうに、私は彼を可愛いと思ってしまっている。私達が手遅れだと気付いたのは、それから少し経ってからだ。
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