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「絆創膏持ってる?」

 クラスメイトの苗字に話しかけられて、俺の体は一瞬こわばった。苗字はスポーツやピアノに励んでいるわけではない。けれど好きな人が体のどこかを怪我したのかもしれないと知れば、普通驚くだろう。

「怪我でもしたのか」

 頼られる嬉しさを感じつつそう尋ねれば、苗字は言いづらそうに言った。

「いや…….下着を忘れて」

 下着を忘れた? それが何故絆創膏になるのか。俺は数秒の間に考え、それが女子特有の下着だと気付く。こいつ、ブラを絆創膏で誤魔化そうとしているのか。どうしても胸元に行きがちな視線を無理やり持ち上げ、小声で尋ねる。

「何で俺に?」
「指大切にしてるから絆創膏持ってるかなって」
 どうやら俺をときめかせたいとか、誘惑してからかいたいとかではなさそうだ。俺の気持ちはバレていなさそうである。

 安堵するのも束の間、こいつが下着を忘れている事実は変わらない。

「まず絆創膏でどうにかしようとするな。俺のジャージ貸すから着ろ。それで俺の半径一メートル以内に入るな」

 思春期の男子にとって、ノーブラの女子は刺激が強すぎる。しかも苗字だぞ。俺が強く言うと、苗字は気落ちしたように俯いた。

「ごめん……私が近くにいたら嫌だよね」
「好きだから言ってんだよ」

 先程気持ちが知られていなくてよかったと思っていたのに、こんな形で告白してしまった。告白するつもりなどなかったのに。苗字が俺に嫌われたと勘違いするよりはよかったのだ。

 さて、これからどうするか。万一両想いで、感動した苗字が俺に抱き着くなどした日には、俺の人生は終わりである。