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「確かに届けたぞ」
どこか気まずそうな顔をする銃兎は、これで俺は関係ないとばかりに名前を突き出した。場所は港沿いの倉庫。ヨコハマの悪者達が取引を行う場所である。銃兎の連絡で呼び出された左馬刻は、名前をしかと受け取る。手を繋いでずいずいと歩き、自前の車に乗せた。その様子はまるで取り調べをする警官だ。
「何でお前がんな所にいんだよ。全部話せ」
エンジンもかけずに、左馬刻は名前へ詰問する。車に入った時点で密室なのだ。左馬刻がボタンを押さなければ、ドアを開けて逃げることもできない。名前は諦めたのか、観念したように口を開いた。
「ちょっと欲しい薬があって……」
「薬だァ?」
薬物の類を左馬刻が嫌っていることは名前も十分に知っているはずである。それに名前は薬物に手を出すような輩ではなかったはずだ。ただの一般人だった名前をそそのかしたのはどこの誰なのか。左馬刻は背後に男の影すら感じる。
「危険な薬物じゃないの! ただちょっと、左馬刻に媚薬を飲ませてみたくて」
なんとも拍子抜けしてしまうような理由だった。名前は悪に落ちたのではない。新しく男を作ったのでもない。むしろその逆だ。左馬刻を好きなあまり、夜の営みにエッセンスをつけようと媚薬に手を出したのだ。確かに、効き目のある媚薬を素人が手にすることは難しい。左馬刻は煙草の煙を吸い込み、ふうと吐き出した。
「お前が俺に不満を持ってることはよーくわかった。今日は薬無しでいいって言わせるくらい抱いてやんよ」
名前は男性経験があまり多くない。手加減して抱いてやれば、このざまである。後からどうしたと聞いてくるだろう銃兎に正直なことを言えば、絶対に笑われてしまう。奴には何と言い訳すべきか。
「私は左馬刻が発情してる姿が見たくて」
「んなんイってる最中に目瞑ってるお前が悪いだろ」
言い訳するように言った名前に、左馬刻はすぐさま反論を返す。快感に耐えるように目を閉じる名前は、左馬刻が名前に締め付けられて感じている姿を見ていない。
「よく見とけ、俺様の顔を」
左馬刻は煙草の火を消して車を発進させた。行先は勿論左馬刻の自宅である。目を無理やり開かせてでも、見せてやろうではないか。
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