▼ ▲ ▼

 このところ、おかしなことが続いていた。オレがひょんなことで転んで苗字さんを押し倒してしまったり、苗字さんが転んで下着を見てしまったり。決まってその異変は、苗字さんといる時に起こる。オレが不幸体質なのは元からだが、誰かに影響を及ぼすのは初めてだった。どうやら苗字さんといると、オレの不幸はラッキースケベに変換されてしまうらしいのだ。

「オレは不幸体質で、苗字さんといるとそれがラッキースケベになって表れてしまうみたいだ。だからオレと一緒にいない方がいいんじゃないかと思う」

 苗字さんを呼び出し、向かい合って告げる。付き合っているわけでもないのに、別れ話みたいだ。苗字さんはまるでフラれたように思いつめた顔をしていた。この数か月間、好いてもない男にラッキースケベをお見舞いしていたらそりゃあ気も悪くするだろう。

「蜂乃屋さんにとって、私のラッキースケベを見ることは不幸なんですか?」
「え?」

 そう思っていた時、勇気を振り絞った目で苗字さんがオレを見た。苗字さんがラッキースケベを披露してしまうことは、オレの不幸体質が伝染してしまったゆえのことだと思っていた。いくらオレにとっては「ラッキー」でも、苗字さんからすれば好いてもいない男と性的なあれこれが起こるのだ。苗字さんにとっては不幸だろうと思っての発言だったが、お前のパンツを見せられて最悪だと言われているように感じるのかもしれない。

 すまなかった、と言おうとした時「忘れてください」と苗字さんが言った。苗字さんにとってそれは正当な主張だろうに、どうしてなかったことにするのだろう。

 オレはふと思う。不幸体質が、どうして苗字さんの前でだけラッキースケベに姿を変えるのだろうと。今まで他人に伝染することはなかった。オレが苗字さんのラッキースケベを見て不幸になることと言えば、苗字さんとの仲が気まずくなってしまうことくらいだ。今この瞬間のように。それではまるでオレが苗字さんとの距離を縮めたいようではないか、と思い直したけれど、オレは数日後にその考えが合っていたことを知る。苗字さんを好きだということに、今のオレはまだ気付かない。