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 所謂フラッシュモブというもので告白された。店員として接している時からおちゃらけた人だとは思っていたけど、まさか彼が私を好きで派手な方法で告白してくるとは思わなかった。フラッシュモブをされて断るという選択肢はなく、彼――五条悟と私はパン屋の常連と店員から恋人同士になった。私は彼とどう付き合うかより、いかに円満に別れるかを考えていた。そもそも、フラッシュモブなどやる人は私のタイプではない。

 私が考えた方法はこうだ。デートのたびに財布を出してもらい、呆れてもらう。男の人はお金を出したがると言うから、最初はスムーズにいくだろうけれどその内がめつい女だと思われるだろう。

 五条さんは多忙なのか既読がつくことこそ遅かったけれど、デートの時間はきちんと作ってくれた。初めてのデート、映画館。彼は当たり前のように二人分のチケットを払ってくれた。その後に寄った喫茶店でも、いいよいいよと勘定を済ませる。まだこれくらいでは安い金額なのかもしれない。私は五条さんをテーマパークに誘った。私の方から声をかけたというのに、私はチケット売り場で財布を出さなかった。五条さんがチケットを払い、特に不平を言われることもなくデートは終了した。

 おかしい。楽しんでしまっている。

 私はさらにお金のかかるデートをするべく、高級ディナー、舞台観劇などに五条さんを誘った。彼はそれが当たり前だと言うようにすべてのお金を払った。五条さんがものすごいフェミニストで、デートのお金はすべて男性が出すものだと考えていたとしてもお金の方が尽きてしまうだろう。その時、私達は別れられる。私は有名店で指輪をねだったが、私の年収を優に超えるそれを五条さんは一括払いで済ませてしまった。

「あの、貴方の年収を聞いてもいいですか?」

 どうして、こんなにお金が続くのだろう。別れるどころか「これは婚約指輪にしようか」とまで言われる始末だ。気になって聞けば、国家予算のような額を告げられた。

「僕って一方では有名人なんだよね」

 そんな人だとは知らなかった。だから奢るのが苦ではなかったのか、と思うと同時に、ある思いが頭をかすめる。

「ただお金が余ってただけ……?」

 五条さんは、私のことが好きだからお金を払うのだと思っていた。けれど彼にとっては、数百万の指輪もコーヒーを一杯買うような感覚なのかもしれない。何故か不安になっている私に、五条さんは笑いかけた。

「ううん、ちゃんと好きだよ」

 その姿に、何で安心するのだろう。私は五条さんと別れたいはずなのに。とりあえず、次会ったら私がコーヒーでも何でも奢ろうと決めた。これからのことは、その時考える。