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教室内を歩いていた時、不意に手の中に何かを丸め込まれた。見てみればそれはお菓子と思わしきラッピングで、向かいには佐久早が通り過ぎようとしているところだった。こういう渡し方には身に覚えがある。女子が月に一度、男子に隠れてあるものを渡す時のような。
「今の何!? 麻薬密輸か生理用品の受け渡しみたいだったんだけど」
私が素直に「生理」という言葉を出すと、佐久早は顔をしかめた。モテるから交際経験はありそうなのに、そういう単語には気まずさを感じるようだ。
「生理とか言うな。ホワイトデーだ」
そういえば今日はホワイトデーだったと後になって気付く。だとしても、普通に渡してくれればいいだろう。私がバレンタインを渡す時だって、義理なのだから堂々と渡した。
「お前にしか返さないから隠れて渡した」
佐久早が隠れて渡そうとするのはホワイトデーを渡す恥ずかしさではなく、返さない他の女子への義理立てであったらしい。佐久早はそういう所がしっかりしていると思っていたので、チョコを返さない女子がいるのは意外だ。
「何で私だけ?」
「他は全部断った」
バレンタインに、佐久早は他の女子からチョコを受け取らなかった。義理などと簡単にあげてしまったのが悔やまれる。私があげたチョコの価値と、佐久早がくれたチョコの価値は全然違うのではないか。私の考えは多分合っているのだろうけれど、だとしたら何故佐久早はこうも平然としているのだろう。佐久早は私を好きなはずなのに、そんな気配を見せないから惑わされる。気付いたら私の方が佐久早のことばかり考えている。これも全部、佐久早の作戦の内なのだろうか。
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