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 勃たなくなった。それは突然のことだった。いつものように女を連れ帰り、組み敷いたところで反応しなくなったのだ。口淫をしてもらっても侑のものが硬くなることはなかった。女は不満を滲ませて帰り、残された侑は一人項垂れた。二十代半ばにして、勃起不全と戦わなければならないのか。病院へ行くことも視野に入れながら、侑は健康に気をつけて日々を送る。女のいない生活はどこか物足りなかった。その間AVやグラビアを見たりもしてみたが、侑のものは依然として反応しない。自棄になりながら酒を飲んでいた時、居酒屋の扉が開くのが見えた。遅れてくるメンバーが到着したのだ。

 この日は雨が降っていて、皆どこか湿りを帯びていた。ついでに季節は初夏を迎え、袖は段々と短くなっていた。居酒屋に入ってきた人物――苗字名前の服からちらりと見えた腋に、侑のものは反応したのである。

 侑はその場で叫び出したい衝動に襲われたが、仮にも公共の場で勃起の話をするわけにもいかない。飲み会が終わるのをじっと待ち、駅のホームで侑は名前を捕まえた。

「なあ」
「わっ!?」

 名前は随分驚いたようだ。解散したと思っていたら侑が現れたので当然だろう。侑は持ち帰りたいとかそういうことではないと断ってから本題に入った。

「俺のED治してくれん?」

 名前は引いているような面持ちで言った。

「それって、結局セックスのお誘いじゃないですか……?」

 突然後をつけられたと思ったら、遠回しに夜を誘われた。それは別にいいのだが、事前に誘っているわけではないと言っていた分格好つかないように見える。侑はこんなにダサいことをする人だっただろうか。

「だから誘ってるわけやなくて! ほんまに勃たなくて困っとんねん!」
「それでどうして私に?」
「お前やったら勃つからや」

 侑は真顔で言ってのける。侑にとって私は、病気かと思われた中の唯一の希望なのだろう。だが周りに勃たない中一人にだけ反応するというのは、そういう意味ではなかろうか。

「それって私のことが好きなんじゃないですか?」
「はあ!? んなわけあるかい!」

 真正面から否定されると少し頭に来る。侑は私に気付かない様子で続けた。

「俺やぞ!? お前の何倍経験あると思てんねん! 何でこんなちんちくりんを好かなあかんのや!」
「でもそのちんちくりんに反応してるのは侑だよね」
「今俺のレーダーは故障中なんや!」

 侑に折れる気はなさそうだ。仕方なく話を前に進める。

「それで、EDの治療って具体的に何をすればいいんですか」
「せやな、セックスしたり手繋いだりとか……」

 侑が真剣にそう言ったので、私は思わず「交際の申し込みじゃないですか」と声に出していた。