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賢者としての役目を終え、元の世界に帰れることになった。魔法舎での挨拶を終え、エレベータが来るのを待つ。見送りは遠慮してもらった。意思が鈍りそうだし、最後は好きな人と二人きりになりたかったからだ。
私の好きな人――オーエンは言われた通りにエレベータの前に来た。やけに素直だと思ったら、私の考えなど見透かしていたらしい。
「賢者様、僕に告白する気だろ」
普段通りの調子で言われ、私の体がびくりと跳ねる。もうこれを機に二度と会えないなら、最後にオーエンへ告白しようと思っていた。オーエンは恋愛事には興味がないか鈍いと思っていたのに、案外鋭かったようだ。
「自分は告白だけして気持ちよく元の世界に帰るつもりなんだ? ずるい賢者様。ねえ、今から僕が最悪の気持ちにさせてあげようか」
オーエンは私へずいと距離を詰めた。吐息さえ感じられそうな距離に息が詰まりながら、自分の心音を聞く。私が告白だけして元の世界へ逃げようとしていたことが、バレている。
「賢者様、好き、大好き。離したくない。ああ、でも賢者様は元の世界に帰るんだったね。両思いの僕を置いて。賢者様には記憶が残るんだから、ずっと僕のことで苦しめばいいよ」
「酷いです、オーエン」
もう二度と会えないならば、返事を聞かずに告白だけして未練を絶つ気でいた。けれどオーエンも私のことを好きだなんて知ったら、帰りたくなくなるに決まっている。私の計画は破綻した。もう帰りたくなくなっているのに、エレベータが動く音が聞こえる。
「僕が嫌がらせでやってると思う? それとも好きだから告白してると思う? 異世界に戻ったら考えてみたら。考え過ぎて頭がおかしくなっちゃうくらいに」
オーエンはまるで他人事のように言った。私を引き留める気配などなかった。私の幸せより、私がオーエンのことで苦しむことを望んでいるみたいだった。
「ねえ、賢者様。僕の告白、嬉しかった?」
オーエンの舌に紋章が覗く。軽い音を立ててエレベータが到着した。私は最後の最後でオーエンに嫌がらせを受けて、最悪な気持ちで元の世界へ帰らなければならない。これもすべて、オーエンという人を好きになった罰だろうか。
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