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「してはいけないことを沢山した」

 東京の大混乱が終わり、戻ってきた日車さんの顔つきは変わっていた。彼は人を殺したということ、自分が思ういけないことを沢山したということを話してくれた。その例として挙げられたのが、服を着たまま風呂に入ることだった。そのエピソードに、今までの日車さんの生活がどれほど狭く締め付けられていたかを感じてしまう。

「浮気はしなかったの?」

 私はふと思って尋ねる。日車さんはもう殺人まで犯しているから小さなことかもしれないけれど、私にとっては気になるところだった。何せ私は日車さんと付き合っているのだ。日車さんを構成する何もかもが変わってしまったような現在、まだ恋仲であるかはわからないけれど、真っ先に私の元へ来たということは付き合っていると思っていいのだろう。

「そうだな、思いつかなかった」

 日車さんは特に迷わずに言った。もしかしたら、日車さんは浮気をしてはいけないことと思っていなかったのかもしれない。前から浮気などしていたのかな、と思うけれど、日車さんなら浮気をした後丁寧に私に報告するくらいの実直さがありそうだ。

「どちらかと言えば、お前を滅茶苦茶にすることの方に興味があった」

 私の目が丸くなる。日車さんは浮気より、私に対して一方的な行為をすることの方を「してはいけないこと」と捉えていたのだ。実行しなかったのは、私がそばにいなかったからなのだろう。戦いに一区切りついた今日車さんがまだその気かはわからないが、私としては乗り気である。

「それは……してはいけないことではないかも」

 日車さんの興味が私に向けられていることが嬉しい。付き合っている身で思うことではないかもしれないけれど、日車さんはいつも淡泊だから。私は日車さんに滅茶苦茶にされる準備もできている。