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 ミーティングなどがあって昼休みに席を外すと、俺の椅子を勝手に使われてしまう。そのことに文句はないのだが、中庭のあまざらしのベンチに座っていたズボンやスカートで俺の椅子に座られるのは抵抗がある。できればご遠慮願いたいが、そんなことを言えば俺の人間関係が上手く行かなくなるのは目に見えている。今日も女子連中に勝手に使われているのだろうな、と思いながら教室へ入ると、ちょうど俺の席に座っていた女子が席を立つところだった。

 クラスメイトの苗字。彼女が立った椅子には、タオルが敷かれている。

「ありがとう。わざわざタオルを敷いてくれて」

 俺は自席に近付き、彼女へ礼を言った。彼女はさぞかし得意ぶるかと思いきや、早口にまくしたてた。

「別に言わなくていいから、ていうか言わないで」

 あまり褒められたくない、自己肯定感の低い奴なのだろうか。変な奴もいるものだ。とりあえず俺の座面の衛生が保たれたことに安堵しつつ、俺は午後の授業を迎えた。放課後、部活で顔を合わせた古森に事の次第を話す。古森は着替えながら俺の話を聞いた。

「それって生理でしょ、血対策」

 驚くとともに、どうして古森はこれほどセンシティブな話を平気な顔でできるのだと思う。俺なら少しは動揺してしまいそうなものだけど。

「じゃあ俺がしたことはセクハラだったのか?」
「かもね」

 古森の答えに愕然とする。

「謝ったらセクハラになるのか?」
「そうかも」

 先程から適当な返事だが、きちんと聞いているのだろうな。確かめたいが、古森は既に着替えを終えて体育館へ出て行ってしまった。とりあえず部活には集中するとして、俺は苗字へのフォローを考える。俺の椅子を汚さないか気を遣っていた苗字。外で座ったようながさつな奴に座られるのは嫌でも、そういう仕方ない汚れは別にいいのだ。

「俺は毎日机も椅子も磨いてる。だから好きに使っていい」

 翌日、俺はそんなことを苗字に告げていた。血が漏れても心配ないですよ、と言うように。椅子を不衛生にされるのは嫌だと思っていたはずなのに、気付けば逆のことを言っている。それは苗字が俺の椅子へ気遣うようなそぶりを見せたからか、それとも苗字だからなのか。

 苗字はきょとんとした後、「ああ、うん」と頷いた。それから俺は、女子同士で話しているのを聞いてしまった。

「不潔って思われてるのかなー」

 違う、と言いたくなる。だがすべてを説明してしまえばそれもセクハラになってしまい、俺はどうすることもできない。