▼ ▲ ▼
「お前と恋仲になれて嬉しい」
行為が終わった後、カイザーは私の手を繋いで言った。その表情があまりにも慈愛に溢れていて、冗談だよね? とは聞けなかった。
カイザーと私はセフレというか、お金の関係だ。カイザーに気まぐれに呼ばれ、一通りの行為を済ませると、カイザーはお金を寄越す。それは現金の時もあったし、キャッシュレスの時もあった。私はお金で買われている、後腐れのない関係。そう思っていたはずなのに、カイザーは恋仲などと言っている。実は繊細なところもあるカイザーを傷付けるわけにはいかなくて、私は遠回しにお金は何だったのかと聞いた。
「あれはタクシー代だ」
別に終電に間に合わないこともなかったというのに、カイザーは律儀にタクシー代をくれていたらしい。私はと言えば、毎回電車で帰っていた。カイザーから貰ったお金は新作のコスメや服に使っていた。
「これ、返すよ」
私は鞄から化粧品をかき集め、カイザーに渡す。使用済みだが、フリマアプリならそこそこの値段で売れるだろう。
「何故化粧品を俺に渡す。いらん」
カイザーはまったく事の次第をわかっていないようだった。まさかあのカイザーが、本命の女にセフレだと思われているなど想像もしないだろう。
「お前は俺の隣にいればいいんだ」
カイザーは私を抱きしめた。私はカイザーの腕の中で、今日のタクシー代は遠慮しようと決めた。それからもう少し、カイザーへの態度を優しくしよう。帝王のはずのカイザーが、なんだか小さな子供のように思えてきた。
/kougk/novel/6/?index=1