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「な〜に指名手配犯がのんびり茶ァしてんだ」

 団子屋の前に影が落ちる。現れたのは、偶然この前を通りかかったらしい銀時だった。

「む、銀時か。名前殿がいるから大丈夫だ」
「攘夷志士と呑気に団子食ってるとはとんだ税金泥棒もいたもんだ」

 銀時も咎めるつもりはなかったようで、私と桂さんの隣に座り団子を注文する。昔馴染みである銀時と桂さんの間に私がいるのは不思議なようだが、二人ともこの街でできた友人だった。真選組と万事屋の関わり合いは深い。まず銀時と知り合い、行きつけの蕎麦屋で桂さんと親しくなった。桂さんと銀時が知り合いだと聞いた時は驚いたものだが、桂さんが指名手配犯だと聞いた時はもっと驚いた。友人と敵の区別がつかないままずるずると付き合い続け、今ではこうして勤務中に茶を飲むまでになっている。

 頼んだ団子にかぶりつきながら、徐に銀時が口を開いた。

「つーかよ、お前考えたことあんの? 何で名前が見過ごしてくれるか」
「ぎ、銀時!」

 私は思わず止めに入った。私が桂さんを捕らえない理由は友人だからというだけではない。敵でありながら、桂さんに惚れているからなのだ。銀時はとっくに気付いているだろうが、桂さんにその様子はない。たとえ気付かれていたとしても、わざわざ伝える必要はないのだ。

「そういえば考えたことがなかったな……土方に反抗するためではないのか?」
「違います、土方さんのことは嫌っていません」

 心の中で沖田隊長じゃないんだから、と付け足す。よかった、桂さんには知られていないみたいだ。安心したのも束の間、銀時が爆弾を落とした。

「ったく真選組に吠え面かかせるとか言ってるわりには鈍いな、こいつは好きなんだよ」

 遂に言われてしまった。私はその場で消え入りたくなりながらも桂さんの反応を待つ。桂さんは真顔で「土方のことがか?」と言った。先程の話を引っ張りすぎだ。

「もういいです!」

 私は立ち上がって走り去った。残した団子は、銀時が食べてくれることだろう。


「あーあー、女泣かせなこった。本当に気付いてねェのか?」

 二人だけになった団子屋で、銀時が桂に問う。桂は相変わらず背筋を正したまま平然と答えた。

「気付かないわけなかろう。だが俺と結ばれては名前殿が立場をなくす」
「全部お見通しってわけね……」

 銀時は名前の団子に手を伸ばしながら呟く。電波な幼馴染だが、向けられる好意に気付かないわけではない。思ったよりこの二人は難しそうだと思いながら、名前の消えた方を見た。