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「今日だけ離婚して」
そう言えば、冴は面食らった顔をした。冴が余裕のなさを表情に出すのは珍しい。何か言葉をかけるでもなく、私は冴を引き連れて外に出る。
「おい、どういうことだ。どこに向かってる。離婚って何だ」
冴は珍しく言葉が多かった。私はずいずいと歩き、目当ての場所へ向かう。そこがスーパーマーケットだと気付くと、冴はさらに不思議そうな顔をした。離婚をするなら同棲も解消するだろうし、一緒に買い物をする意味がわからないと思っているのだろう。だが私は「今日だけ」離婚をしたいと言ったのである。
「このために離婚したのか」
今日の特売、卵コーナーを見て冴は渋い表情をした。何を隠そう、この卵はひと家族様ひとつ限りなのだ。冴と結婚していては、一つしか買えない。
「冴は支出が多いんだから節約しなくちゃ」
私が二パック手に取ると、冴はポケットからスマホを取り出した。
「俺が不甲斐ない男みたいだろ。貸せ。卵だな。箱買いする」
冴に任せるとこうなるから嫌なのだ。消耗品、しかも生ものを箱買いしてどうする。
「使いきれないからやめて!」
十代から有名人だというのも大変だと思う。その狂った金銭感覚を直すのも私の役目なのだろう。とりあえず冴は、卵を二パック買うことに納得したようだった。
「帰ったらまた結婚な」
俺にプロポーズをやり直させるのはお前くらいだ、そう言いながら。
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