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「荒船くん、噂になってるね」

 ラウンジで耳を澄ませば、荒船くんの名前が聞こえてくる。それと一緒に聞こえてくるのは私の名前だ。私達が付き合っている、そんな噂がまことしやかに囁かれている。

「あー、放っておけばいいだろ」

 意外にも荒船くんは気にしていないようだった。うぶな男の子のように顔を赤くすることはないと思っていたけど、これではまるで私と付き合ってもいいかのようだ。

「いいの?」
「構わねえよ」

 私と噂をされてもいい、が私と付き合ってもいいとイコールで結び付けられるのはそう難しいことではなかった。ラウンジを去って行った荒船くんの後ろで、私は密かにガッツポーズをする。荒船くんとの距離を近くして親密さをアピールしたかいがあったというものだ。

「荒船くんの彼女の苗字名前です」

 後日、私がC級を前にそう名乗っていると、困惑したような荒船くんが人波をかきわけてやってきた。

「待て、何でそうなった」
「噂を肯定したでしょ」

 荒船くんは帽子の上から頭に手を当てる。噂と言えば一つしかないだろう。それとも他の荒船くんに関する噂が流れているのだろうか。クエスチョンマークを浮かべる私に、犬飼くんが「荒船は鋼くんとの噂が流れてるんだよ」と耳打ちした。初耳だ。私だけではなく村上くんとの噂が流れているとは。男同士で噂になるなど一体何をしたのだろう。私が荒船くんをじっと見ていると、「とりあえず今お前が考えてることは間違ってる」と荒船くんは言った。

「俺とお前で噂を取り違えてたのは理解した。だが付き合いたいならちゃんと手順を踏んでから言え」

 そんなの、手順を踏んでから云々と言っている時点でオーケーされているようなものだろう。

「答えはわかりきってるのに?」

 私が尋ねると、荒船くんは眉をしかめた。

「まだ俺は答えてねえ」

 しきたりや手順を大事にする荒船くんのために、仕方なく告白してあげるとしよう。公開告白になってしまうが、それは我慢してほしい。