▼ ▲ ▼
「送って行く」
ラウンジで一緒になったヒュースにそう言われて、私は少なからずときめいた。本部から私の家までの間、途切れつつ色々な話をする。時折沈黙が訪れても、ヒュースは気まずいと思っていない様子だった。
「じゃあ、私ここだから」
「ああ」
私の家の前に着き、私達は解散する。ヒュースは私が家に入るまで見届けてくれた。私もヒュースの後ろ姿を見たくて、窓の外を見る。するとそこには、私の家の周辺をひたすら徘徊するヒュースがいた。
「な、何してるの?」
私は思わず窓から叫ぶ。ヒュースは外国人だし、こんなことをしていては目立つ。近所の人に、私がヒュースを連れて歩いていたと知られるのも気まずかった。
「帰り方がわからない」
ヒュースは平然とのたまう。その言葉で、ヒュースが日本のことに疎いのを思い出した。三門の地理もまだ頭に入っていないのだろう。しかしそれなら、何で送って行くことにしたのだろう。
「何で送って行くって言ったの?」
「女は普通男が送るものだろう。好いているなら尚更だ」
今さらりと告白されたような気がする。窓から叫んでいるこの会話をどうかご近所に聞かれていませんようにと思いながら、私は家の外まで出た。
「とりあえず玉狛まで送って行くから」
そう言えば、「それでは帰りお前が一人になるだろう」と返す。ヒュースの中で、女は絶対的に守る対象であるらしい。
「ヒュースのせいじゃん! 私が送って行けないならもう私の家に泊まるしかないよ?」
「それでは邪魔する」
ヒュースは方向転換をし、私の家に向かった。その勢いのよさに、まさか最初から狙っていたわけではないよな、と思う。ヒュースが三門に慣れていないのは本当のことだし、ヒュースがそのようなずるい男であるはずがない。と、何故私はヒュースを信頼し始めているのだろう。
/kougk/novel/6/?index=1