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 私は選んだ服に着替え、試着室の扉を開けた。

「これ似合う?」

 待っている間スマホをいじるでもなくただ立っていた佐久早が、私の方を見る。

「まあまあ」

 決して褒めるような言葉ではなかったが、私の心は満たされた。彼氏ができたら、こうして試着室でデートをするのが夢だったのだ。可愛い洋服に囲まれ、私の気分はすっかり上がっていた。

「満足した! 次行こ!」

 このショッピングモールには他にも様々な店がある。服屋はこの辺にしてお茶でも飲もうかと思った時、佐久早が私の脱いだ服を受け取った。

「待て。今お前が試着したもの全部買う」

 まるで私が似合っていて、佐久早がはそれを全部買い与えてくれるスパダリのようだ。

「そんなに私のことが……」

 私が口に手を当てて感動していると、佐久早は買い取るというのに服の皺を直していた。

「一回着たのを買い取らないなんて不潔だろ」

 佐久早が潔癖なのは言わずと知れた事実である。そういえば、佐久早が試着をしているところを見たことも聞いたこともなかった。この潔癖人間は、試着というシステムそのものを嫌っているらしい。

「私が似合ってたからとかじゃないんだ……」

 私が言うと、佐久早はレジへと向かいざまに言った。

「別に似合ってないとは言ってない」

 素直に似合っていると言えばいいのに、それはできないらしい。佐久早のわかりづらい愛情を感じながら私は嬉しくなった。