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 私の浮気相手の男と歩いている時に、突然腕を掴まれた。振り返ってみれば、そこにいたのは恋人でもないただの昔の男だった。彼は私を責める立場にないはずなのに、恐ろしいまでの圧を携えて微笑んだ。

「浮気の仕方を教えたのは誰だっけ?」

 彼――南雲さんの言葉に昔を回顧する。私と南雲さんは付き合っていた。けれど、南雲さんの仕事の事情でこれ以上付き合うことは無理だと言われた。

「でも僕は君を振りたくないから、君が浮気したことにしてほしい」

 何と勝手な男だろうかと思った。しかし南雲さんがどれほど真剣に私を想っているかは知っていたし、そんな南雲さんが別れるくらいだからそれなりの事情があるのだろうと思った。私は別れを承諾し、南雲さんの言う通りに浮気をした。南雲さんは満足そうに、少し寂しそうに去って行った。それから別の男と付き合ったが、今度は必要がないというのに浮気をした。その次の男と付き合った時もそうだった。私はどこかで南雲さんを求めていて、付き合っている男のことなど好きではなかったのかもしれない。

 話は現在に戻る。

「もう君と付き合えない理由はなくなった。浮気なんかやめてさ、僕ともう一回付き合おう」

 私は浮気相手の手を放し、南雲さんの手を取った。私達はまるであの頃のように手を繋いで歩いた。彼から別れないといけなくなったのはORDERという秘密組織に入ったからであること、もうORDERを抜けたから安全であることを聞いた。

「じゃあこれからはずっと一緒にいられるってこと?」
「お尋ね者だけどね」

 お茶目に笑う南雲さんを見て私は眉を下げる。南雲さんが日本中から追われていようがどうだっていい。また私の隣で、笑ってくれるならば。