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 二宮隊がA級に入ったばかりの頃の話だ。エンブレムを決めようとする二宮の元に、デザイナーが通っていた。二宮はデザイナーの出した案を受け取り、そして突き返す。

「もっと勢いのある雰囲気にできないか」
「わかりました。また後日持ってきます」

 二宮隊を担当している女性デザイナーは弱々しい笑みを浮かべ、隊室を去った。一部始終を見ていた犬飼が口を挟む。

「二宮さん、まだエンブレム決まらないんですか? この間のでいいって話になったじゃないですか」
「微修正が必要だ」
「もう十分できてると思いますけど」

 彼女の出したエンブレムは洗練されたデザインだ。当初のイメージに合うものだし、二宮は気に入っているようでもある。

「俺もそう思う」
「じゃあ何で修正を……?」

 同じく様子を見ていた辻に対し、二宮は平然と返した。

「そうしたらあいつに会えるだろう」

 一秒、二秒と時間が流れる。事の次第を理解するのに時間を要した。つまり、二宮はあの女性デザイナーを気に入っており、彼女に会う回数を増やすためにあえて不要なリテイクをしているのだ。

「二宮さん不器用すぎですか! 普通にご飯でも誘えばいいでしょう」
「どうやってだ」
「おれ達を焼肉に誘う感じで」

 初回のデートが焼肉はいささかおかしな気もするが、二宮らしいと言えば二宮らしい。二宮は考え込んだ後、脳内で却下したように言った。

「リテイクを出した方が簡単に会える」
「それ絶対相手傷付いてますから!」

 二宮は彼女の弱々しい笑みを思い出した。プロのデザイナーなのだから、それなりに自分の仕事に矜持があるのかもしれない。だが、食事に誘うのでは多くても二回会える程度だろう。リテイクを出した方が簡単に何度も会える。

 次に彼女がやってきた時、二宮はまたリテイクを出すつもりでいた。犬飼の言葉を思い出して彼女の様子を観察すれば、今度は二宮に何を言われるのだろうとでも言いたげにおどおどとしているのがわかる。二宮は、珍しく褒めるようなことを言った。

「お前の仕事は素晴らしい」

 それからまたリテイクをした。彼女は何故褒めるのにリテイクをするのだろうと不思議そうだった。しかしながら、褒められたことは胸にしかと刻まれている。今まで無表情でダメ出しばかりしていた二宮の褒め言葉は、彼女の胸に深く刺さった。ただ優しくされるよりも格段に印象的に。

 二宮の恋愛手法は、案外理にかなっているのかもしれない。