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「六月と言えば?」

 古森の問いかけに、佐久早と名前は声を揃えた。

「梅雨」
「ジューンブライド」

 二人は顔を見合わせる。佐久早が梅雨と言うのは、恐らく髪の具合が影響しているのだろう。今日も湿度は高く、佐久早の髪のカール度合いは冬より強まっているように思える。一方で名前が結婚を口にするのは乙女らしいと言えばそうだが、まだ高校生で一般的な話題ではない。

「ジューンブライドがどうお前に関係あるんだよ」
「いつか佐久早からプロポーズされるかもしれないじゃん?」

 してもいいんだよ、と言いたげに名前が得意げな顔を浮かべる。

「リクエストするな」

 いつの日かプロポーズすることは否定しないらしい。遠回しに結婚するなら六月がいい、と言ったのを何年後の佐久早は覚えているだろうか。

「佐久早こそ梅雨がそんなに関係ある? 髪の毛気になるなら整髪剤つければいいじゃん」

 佐久早の髪の毛は今もうねっている。朝と放課後に部活で汗をかくからか、佐久早は髪の毛を無理にセットしようとしない。だが佐久早には、もっと大きな理由があるのだった。

「朝練終わりにもうお前に見られたからいい」

 佐久早が一番に見かけを気にする相手は名前である。その名前にセットしていない姿を見られたならば、もうこれ以上は身なりを気にする必要がない。佐久早なりの開き直りである。古森はそんな二人を見て閉口した。どうしてこの二人は、ここまで好意があからさまなのに付き合っていないのだろう。それは佐久早の自分から告白したくないというプライドのせいなのだけど、古森はまだ知らない。

「ま、お幸せに」

 古森は手を振って二人から離れた。二人きりになって助かる、と言うように佐久早が目を光らせた。