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侑に部活後の体育館裏に呼び出された。話したいことがあるならこの場で話せばいいのにと思ったが、侑は私の考えを見透かしたかのように「ここじゃ話せん。ええか、絶対来いよ」と言った。仕方なく私は課題をして待ち、体育館裏へと向かっているのである。この帰宅部の私がわざわざ下校時刻まで学校にいるのだから感謝してほしい。逆にいつでも話せるようなどうでもいい話をされたら一発入れてしまうかもしれない。体育館裏などと言うから周りの友達からは告白ではないかと囃し立てられたが、侑に限ってそんなことあるわけない。体育館裏を選んだのは単に自分の部活の活動場所から近いだけだろう。結局、何の話かは私も予想がついていないのだけれど。

体育館裏に着くと、侑は既にそこにいた。「待っとったわボケ」と言う口調はいつも通りのようで、どこか張りつめているようでもある。「待ったはこっちの台詞や」侑がいつも通りじゃないと、私もいつものように憎まれ口を叩けない。今回の話は、本当に深刻なのかもしれない。私が覚悟を決めた時、侑は唐突に口を開いた。

「好きや」
「え?」
「だから、好きやって言ってんのや!」

叫ぶ侑の頬は赤くて、私を必死に見つめていて、これではまるで恋をしているみたいだ。その瞬間、私の中で今までの侑との日々が蘇る。

「嘘でしょ!? 侑が!? 私に!? ありえへんわ! どないなっとんねん!」

そう言うと、目の前の侑はやけに緊張した様子からいつもの雰囲気へと態度を変えた。

「人が告白してるのになんやねんその言い方は! もうええわ! 今のナシや、ナシ!」
「そらよかったわ! あー待って損した! ほなまたな!」
「はよ帰れや!」

私は追い出されるようにして体育館裏から出た。こんなことならばわざわざ待たなくてよかった。明日から侑に何か言われても無視しよう。侑と喧嘩状態になるのは、これが初めてではないのだから。

その背後で、機を狙ったように一人残された侑の周りにバレー部員が押し寄せた。誰かが何か発するより先に、侑は地面に両手を着く。

「何やってんねん、俺……!」

すると部員達は口々に侑を責め立てた。

「折角告白したのにあそこでナシはありえへん」
「あと一押しでいけたんちゃう?」

その言葉が刃となって侑の体を貫く。確かにいつもの喧嘩腰で名前に突っかかってしまったことは否めない。だが、最初に突っかかってきたのは名前なのだ。

「だってアイツがありえへん言うんやもん! いくら何でも告白無碍にされたら腹立つわ!」
「でもそこは侑が大人になるべきやったんよ。苗字さんもビックリしただけやって」
「どうせ俺は器の小さい男や……」

項垂れる侑の頭に、誰かの手が触れる。

「ま、これで意識はさせられるやろ。後は侑がどうするかや。頑張り」

わしゃわしゃと頭を撫でられる感覚と、目の前の地面から感じる土の匂い。これらの感覚を、侑は一生忘れはしないのだろう。

「よっしゃ! 攻めて攻めて攻めまくって、男見したるわ!」

侑は立ち上がると、沈みかけている夕陽に向けて誓った。