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「その国の恋人を作るのが語学の一番の上達法って言うよね」

 段ボールにガムテープを貼りながらふと口を開く。聖臣の部屋は段ボールでいっぱいだ。それも長らく籍を置いていたブラックジャッカルを離れ、海外に移籍するからである。聖臣はものを整理していた手を止め、私を振り返った。

「俺に浮気しろと言ってるのか?」
「しないの?」

 私は聖臣と付き合っているが、一緒に海外へ行くわけではない。聖臣が現地で愛人を作っても、まあ仕方ないだろうと思っていた。アスリートはモテるだろうし、向こうには魅力的な女性がたくさんいるだろうし。

 聖臣は息を吐いてまたものの山に向かい合う。

「遠距離でも関係ないし俺は人を無料の語学教材にもしない。無責任にお前を待たせることもしない」

 浮気を否定しながら、さらりとすごいことを言った気がする。まだ匂わせる程度だが、待たせるからには責任をとるというような。

「それって結婚するってこと?」
「そうだ」

 部屋には再びガムテープを伸ばす音が響く。聖臣がロマンチックなプロポーズをするとも思わないけれど、こう会話の中で繰り出されるとも思わなかった。

「なんかぬるっとプロポーズしたね」
「フラッシュモブが良かったか」

 聖臣とフラッシュモブの不釣り合いさに小さく笑う。

「踊る聖臣は見たかったかも」
「お前が結婚してくれるなら踊ってやる。で、どうなんだよ」

 聖臣のじれったいような瞳が私を捉える。その瞳の奥には熱がある。淡々としているようで奥底で燃え盛る、聖臣のそんなギャップに私はやられてきた。

「踊る聖臣を見たいからじゃなくて、きちんと好きだから結婚したいです」

 聖臣は「そうか」と言って再び段ボールに向き合った。やっぱり、聖臣は冷静だ。

「わっ」

 そう思った瞬間、聖臣にがばりと抱きしめられる。一九〇超えの巨体が覆い被さってくるのだから、私はバランスを失う。

「ありがとう」

 そう笑う聖臣は子供のようで、私はこの人が好きだと今更ながらに思った。