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冴と付き合ったことは、いつか凛に知られてしまうのだろうと思っていた。凛が冴の弟だからではなく、冴がそういったことを隠さない類の人間であるからだ。冴の周りでどう言われようが気にしない様子は、凛から見れば驕っているように見えるのだろう。ただでさえ、冴のことを悪い意味で意識している凛のことだ。そこに私となれば、最悪の結果を招くことはわかっていたはずだった。そう、私は凛が向けている気持ちに――言葉にすることは避けていても、気付いていたはずだったのだ。それを、凛の限界まで見過ごしてしまった。
「何でだよ……!」
凛は、糸師家のリビングに私を押し付けた。私の頭は壁に衝突した。
今は、糸師家の両親が出かけていて冴もいなかった。私は親に頼まれた用を果たすために糸師家へ来て、こうして修羅場になってしまった。どこかでこうなることはわかっていた。ならば、二人きりの方がいいと判断したのだろう。私の無防備さは計算されたものだった。凛がそれに気付いているかはわからないが。
凛は、激昂していた。顔に走っている血管が見えるようだった。息は荒く、私を掴む手も強い。凛がここまで気持ちを爆発させる前に、どうにかする方法はなかったか。私は考えないわけにはいかないが、冴を好きである以上私が何をしようと逆効果なのだ。
「ごめん」
多分、そう言うことも凛を刺激してしまう。凛は奥歯を噛み締めて俯いた後、再び私を睨んだ。
「元からお前なんか好きじゃなかったんだ、これはアイツに対する嫌がらせだ」
凛は乱暴に私の腕を引き、ソファに押し倒した。それは小さい頃、私と冴と凛でよくアイスを食べたソファだった。今から彼氏の弟に犯されようとしている身でそんなことを考えている自分が、酷く滑稽に思えた。
「冴が一番嫌がることをしてやる」
凛は私の服を暴いた。多分凛は付き合っている人と性行為をしたことがないのだろうと思った。手つきがぎこちないのではなく、その逆だ。あまりにも乱暴すぎて、到底女体を知っているとは思えない。私の肌の面積が増えるたびに、凛の吐息は力強くなった。
「あいつの……彼女なんかに……」
何年も、もしかしたら幼少期から好きだった幼馴染の裸を見た感想がそれなのだと思うと、私は少し凛に同情した。凛は、もう少し違う状況を想定していたのではなかろうか。今の凛は怒り狂っている。それ以外に何もできないのかもしれない。
雑に唇を合わせられる。凛の舌が、激しい動きで私の口内を這っていく。舌はまるでそれ自身に動きがあるかのように、私の口内の奥まった部分まで突いた。凛の舌は厚くぬめりを帯びていて、唾液で何度も滑った。
「っハァ……ん……」
凛の手が、私の胸に及ぶ。未知の物体をこねくり回すように、凛の手が動く。その柔らかさを確かめると、堪能するように大きく手を屈伸させる。凛の手は私の乳首を見つけ、親指と人差し指で擦った。私の乳首が勃起していることに満足したようで、凛は私の足を持ち上げた。
冴にもまだ見られたことのない場所を、凛に見られている。これを知ったら冴は怒るだろうか。不確かな予想だが、冴は怒らないだろう。冴もまた、凛の気持ちを知っているから。凛は冴の、そういった余裕綽々な所にまた怒りを覚えるのだ。
私の膣は、あまり濡れていなかった。凛が濡らす方法を知らないわけではないと思うが、一応「嫌がらせ」という建前上慣らすことはしないようだった。
「いっ……」
膣を裂いてしまうような動きで差し込まれた男根に、私は思わず表情を歪める。決して初めてではない。それでも凛の男根は大きかったし、私達はまだお互いの体を知らなかった。
「嫌がらせ」なら嬉しそうな顔をすればいいのに、どうしてか凛は苦しそうな表情をした。私が痛がるのを見て苦しいなら、しなければいいのに。表情を隠せない凛の不器用さが、今は切なく思えた。
「あっ、ん……は」
凛は私の膝裏を掴んで腰を振った。それはあまり強い力ではなかったし、凛自身行為に夢中になっているから私は逃げ出すこともできただろう。でも私は性行為を享受していた。凛があまりにも苦しそうな表情をするから、私も一緒に苦しむべきだと思ったのだ。凛がこうなってしまったことには、私にも責任がある。
凛の苦しさは、今すぐにでも果てたい欲と戦っている、それだけではないだろう。私を手に入れられなくて、そのせいで私を傷付けるような真似をしているから苦しいのだろう。これは言わば自傷行為だ。自傷行為と称して、セックスをするのだ。冴と付き合っている私と凛が。
「ハァ、ハァ、……」
快感に浸っていれば、何も考えずに済む。だから私達は、できるだけ気持ちよくなろうとした。何もかも忘れてしまうくらい滅茶苦茶になって、罪から逃げ出そうとした。でも無理だった。私達が、お互いを忘れられるはずなどなかったのだ。
最初に私が果てて、少しした後凛がテーブルからティッシュをとった。男根を包んだティッシュが一回り小さくなる。もう逃げることもできずに、私達は静まり返った。
冴に言うな、と凛は口止めしなかった。私も言うつもりはなかったし、冴は何も言わなくても察するのではないかと思った。そうして私を抱き寄せて、初めて私の裸体を見る時少し眉を寄せるのだろう。弟に先に見られてしまった、という喪失感によって。
私達は誰も幸せになれない。誰かを犠牲にしても、忘れることなどできない。
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