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 繁華街で立っていると、声をかけられるくらい有名になってきたのだと、時折しみじみ思う。
「コヅケンじゃん! 待ち合わせ? 誰と?」
 親し気に話しかけてきたのは随分垢ぬけた少女だ。派手な服装と化粧で隠されているが、恐らく中学生か高校一年生くらいではないだろうか。俺が高校の頃は少女のような風貌のクラスメイトから気味悪がられていたことを思うと、少しは成長したのだろうか。いや、ただの興味か。
「後輩」
 俺が簡潔に答えると、少女は興味をなくしたのか「そっか!」と言ってどこかへ消えて行った。そして、その「後輩」はやってきた。
「研磨〜!」
 学年が一つ下なのに、呼び捨てで呼ぶところは変わらない。派手に近寄って来た彼女を見て、「名前」は先程の少女が成長した姿のようだと思った。少し派手で、明るくて、俺に何かとちょっかいを出す。
「待った?」
「別に」
 多分だけど、名前は先程のやりとりを見ていたと思う。俺がナンパなどされていたら面白がって隠れているようなところが、名前にはある。結局ナンパではなくただのミーハーなリスナーだったので、名前は出てきたのだろう。ナンパの時も出てきてくれたらいいのに、と思う。まあ、本当は男の俺が断るべきなのだけど、名前が俺を客観視するのと同様に、研磨も名前を観察している。彼女ではない名前がどうやってナンパを断るのだろう、とか。
「店予約してあるよ」
 俺は地図アプリを開いたスマートフォンを出した。名前が好みそうかつ、個室のレストランを予約してある。個室なのは、俺が少しは顔の知れた存在だからだ。
 名前は少し考え、妙案を思いついたとばかりに瞳を輝かせた。
「どうせなら研磨の家でやらない? はしごするの面倒だしさ」
 名前が言わんとしていることは、食事をしたその後のことなのだろう。念のため、確認をとる。
「……何を?」
「そりゃ、アレでしょ。研磨の家音響室あるし、すごい良さそう」
 匂わせる程度の発言ではあるが、これで確定したも同然だ。
「人の家をラブホ扱いしないでくれる」
 こういったことを照れずに言える俺はやはり、成長したと思う。

 面倒なやりとりや、余計な読み合いがないのは名前のいい所だ。俺の家に着くなり、「音響室どこ?」と言って俺より先に家の中を歩き回った。仕方ないから俺が後ろから追いかけるようにして「そこ」と言った。音響室の厚いドアが閉まる。
「へえ」
 名前の声が響いた。これは俺が配信や収録をするのに使っている部屋で、決していかがわしいことをするための部屋ではない。しかし、名前にあれだけ期待されたら、応えたいと思うくらいには名前のことを気に入っていた。
 俺と名前は過去に三度ほどセックスをしていた。一度目は音駒のよくわからない人選で飲みに行った帰り。俺は配信業を始めて、随分気が大きくなったようだと気付いた。だから簡単な気持ちでセックスをして、気を悪くしたら謝りたいと言った。名前は全くその必要はないと言い、俺とのセックスがどれほどよかったかを説いた。俺はそんなに上手い方ではないと思うけれど、名前は一生懸命励ましてくれた。その流れで二度目のセックスをした。三度目は二人で会って、簡単な食事をしてからホテルに行った。ホテル代は大したものではなかったのだけど、東京の休日料金を俺に出させたことを学生の名前は申し訳なく思っているらしかった。それで節約のために、名前は俺の家を選んだのだろう。実にわかりやすい女である。
 部屋をあてもなく彷徨っている名前を、後ろから抱きすくめる。
「探検は済んだ?」
 少しは動揺してくれたらいいのに、と思うけれど、そこは学生時代から一軍に属していたからなのか、経験値はそれなりにある。
「うん」
 振り向かせたまま口づける。お互いの舌を搦め合って、卑猥な水音が響いた。音響室だから、その音は反射して静まり返った部屋に響く。ホテルでするよりもずっと、いけないことをしているみたいな気持ちになる。
「立ったままでいい?」
 当然ながら、音響室にベッドはない。あったら、本当に変態みたいだ。一応音響室に女を連れ込むのは名前が初めてなのだけど、名前からはどう思われているかわからない。無理して釈明する必要もない、と思う。
 俺は後ろから名前の体をまさぐった。名前の体はやはり成長していた。在学当時からそういう目で見ていたわけではないけれど、女の子の成長は長く続くものなのだなと思う。手早くブラのホックを外し、後ろから胸を掴む。若いっていいよな。配信で知り合った人が言っていたことを思い出した。肌にハリがあって、ぷるぷるしてる。その時はいまいち理解していなかったけれど、今ならわかる。名前の肌は、きめ細やかでしっとりとしていた。確かな弾力のある胸も、いつかは失われてしまうものなのだろうか。それほど長く俺と名前が一緒にいるイメージが湧かなかった。多分、二十七くらいになったらひょっこり現れた男と結婚するタイプの女だと思う。そうしたら俺はお役御免である。
 右手で胸を揉みながら、左手でスカートの中をまさぐる。名前の下着は既に濡れていた。そのクロッチをずらして、陰核を指で擦る。名前の吐息が段々湿っぽくなる。腰をくねらせ、しまいには腰がくだけて座り込みそうになる名前を俺は後ろから支えた。名前が力を失えば失うほど俺の指は名前のあそこにめり込んで、より強い刺激となった。そろそろいいかもしれない。舌なめずりをして、俺はズボンの前を開く。
 簡単に指で開いてから、男根を挿入した。名前は俺に後ろから抱き着かれていることでようやく立っていた。名前の腰を掴み、下から突き上げるように動く。名前の喘ぎ声はやはり響いた。安いラブホテルなどより確かにいいかもしれない、と俺は思った。
 名前はよろめいて目の前の壁に手をついた。そこにはマイクがあった。俺はいいことを思いついたとばかりに、マイクの電源を入れる。
「さ、お望みの音響だよ」
 名前はやっと我に返ったかのように、髪の毛を振り乱して顔を上げる。
「え……?」
 その声が、拡大されていることに気付いたのだろう。名前の体はびくりとし、膣が一瞬強く締まった。やさしくない俺は、この隙にも攻撃の手を緩めない。
「これ、ネットに配信してないよね?」
 焦ったように言う名前を見て、そこまでネアカではないのだなと思った。名前が乗り気で全世界にセックスを配信したらどうしようという気持ちが、俺の中に少しはあったのだ。名前は一般的な常識を持っていた。
「どうだろうね」
 勿論配信などしているわけないのだけど、俺はわざと意地悪に言った。名前は恥ずかしがっているのか、くぐもった声を出すようになった。それが気に入らなくて、俺は随分と名前をいじめた。
「っん! ぁ……ふ」
 その声の一つ一つが、拡大されて部屋中に響いている。顔を隣に乗り出せば、名前の頬はかなり熱かった。
「ほら、もっと聞かせて?」
 音響室でセックスをしたいと言ったのは名前なのだから。クロにも他の同級生にも見せたことない俺の男の姿。自分でも時折引くけれど、名前といる時は結構馴染む。
 壁に反射した名前の顔を見て、俺は意地悪い笑みを浮かべた。悪い大人になってしまったものだ。