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こうなってしまったことに、私は少しの責任を感じていた。目の前の凛は張り詰めた表情をしていて、そうさせたのは私だと思うと申し訳ない気持ちになった。でも、私が凛の望みに応えることは不可能なのだ。私は冴と付き合って、冴を好きでいる。それでも凛に幸せになってほしいと思うくらいには、凛への思い入れもあった。
私を押し倒した凛は、しばらくそのまま動かなかった。まるで今も自分の理性と戦っているかのように、大げさに息をしていた。私は抵抗することができなかった。凛の力が強いこともあったけれど、ここまで凛を追い詰めた身で、今更嫌がる権利などないと思っていた。
凛は何かを待っているかのように動かない。ここは糸師家のリビングだ。早くしなければ、誰かが来てしまうかもしれない。お父さんか、お母さんか、――冴か。私は無意識の内に冴に縋っていることに気付いた。彼氏だからではなく、今の凛を止める人は冴しかいないのだ。
凛は必死に戦っていた。恐らくは、自分自身と。でももう元には戻れなかった。今までも好きだという気持ちは感じ取っていたけれど、男女の情をあからさまにしたのは今回が初めてなのだ。
凛の肩越しに、冴が立っているのが見える。これで止めてくれれば、と私は思った。けれど、冴は壁に背を預けて悠長にこちらを見ていた。
「止めてほしかったんだろ?」
空気が凍てついたかのように、凛が目を見開いた。私も動揺していた。冴が彼女である私を守らないということに、一種の衝撃を受けていた。
「止めねぇよ。最後までやれ。そんできっちり報いを受けろ」
冴は壁際から動かないようだった。彼女が自分の弟に犯されているさまを見るのは、どういうプレイなのだろう。冴がふざけているようには見えなかった。本気で、やるからには最後までやればいいと思っているのだろう。弟への情けのようなものはなく、むしろ罰を与えたがっているように見えた。
凛は酷く混乱しているようだった。視線を一点に止め、私でも冴でもないどこかを見ているようだった。凛が自分を失っているということだけはわかる。まるで後ろに拳銃をつきつけられた兵士のように、震える手で、私の服に手をかけた。
後から思うに、凛は本気で私を犯すつもりなどなかったのだろう。ただ私を押し倒して、凛は我慢の限界だ、凛も私を好きなのだとアピールできればそれでよかったはずだ。凛は心のどこかで、冴に殴られ私に軽蔑されることを望んでいたのだ。でもそうはならなかった。冴が、普通とは異なる考えの持ち主だったから。
凛の手つきは、まるで人形の着替えをさせているようだった。私の服は一つ残らず剥かれ、ソファのわきに置かれている。凛は信じられないような目で私の裸体を見た。私の裸に混乱しているのではなく、自分の手で私を犯しかけていることに動揺しているようだった。でも今更もとには戻れないし、冴が見ているから途中でやめることもできない。凛は、震える手を私へ伸ばす。
「ん……」
「っ!」
凛が私の乳首を挟んだ時だった。私が小さく声を漏らすと、凛は反射的に手を退けた。まるで初めて動物に触れる幼子のようだった。怯えている、という言葉が合うかもしれない。
凛は震えた手を下せずにいる。そこへ、冴の言葉がかかる。
「やれよ」
すべては凛が始めたことなのだから。最後までして、罰を受けなければならない。凛は表情を崩したまま乳首を刺激した。私の体が反応するたびに、泣きそうな表情になっていた。冴の視線が突き刺さる。冴は、残酷なほど冷静だった。
これは最後までやり遂げないと終わらないと思ったのだろう。凛は、私の足を掴んで広げた。その中心は湿っていた。手を空中で何度か動かした後、膣へ指を入れる。私の体の準備より凛の準備をした方がいいのではないだろうかと思うくらい、凛の手は震えていた。そのぎこちなさが、不規則な快感を生んだ。冴の視線を感じながら凛の手で感じるのは実に後ろめたいことだった。二人が選んだことだから仕方ないにしても。
私の中は長すぎるほどの前戯で慣らされた。まるでこれから先に進むことを拒否しているかのようなしつこさだった。でももう、進まずにはいられない。
凛の方がこれから入れられる女の子なのではないかと思うくらい震えた眼差しで、男根を取り出した。凛が照準を定めるさまを、私は恐ろしい思いで見守っていた。多分凛も同じ気持ちだったと思う。何度か愛液で滑りながら、凛の先端が入る。凛が奥歯を噛みながら先へ進めて、私達はつながった。初めて冴以外の人のものを、私の中へ入れた。
「う、う」
凛だって男の子なのだから動きたい気持ちはあるだろうに、凛は泣き出しそうな表情をしていた。お互いにもどかしい気持ちはある。それでも、心が拒否してしまう。
「やれ」
「う……ッ」
凛が殆ど泣いているような声を出して、前後に動き始めた。凛の顔はくちゃくちゃだった。私も多分同じ顔をしているのだろうと思った。私は彼氏の実の弟とセックスをしていて、そのさまを冴が見ていて、もう滅茶苦茶だ。頭も体もどうにかなりそうだった。
「は、……あ、ん」
凛は感じていることを隠さなかった。付き合っている女の子とならもう少し取り繕ったのかもしれないけれど、少なくとも今私との間においてその必要はないようだった。凛は、男根を抜いて射精した。出す瞬間すら何かに怯えているようだった。これで終わりだ、とばかりに冴を見る。しかし冴は冷徹だった。
「名前がまだだろ」
凛は苦悶の表情で私の中を刺激した。凛への拷問に私が使われているみたいで、私自身苦しかった。早く果てたい、と思うのに凛の手つきは拙くて、なかなかいけない時間が続いた。凛の縋るような目と冴の凍てつく視線に見守られながら、私は漸く果てた。その瞬間の凛は、少しの安堵をにじませていた。
「凛」
いつの間にか冴が私達のすぐそばまで来ていた。凛が振り返った次の瞬間、凛はリビングの家具を巻き込んで数メートル先まで吹っ飛んでいた。
「俺の女を抱いた罰だ」
これで帳消し。これでもう私のことは諦めろという、冴なりの儀式なのだろう。それにしても残酷で、私は仰向けのまま泣き出していた。冴は裸のままの私を抱き上げ、リビングから離れた。何も報われない、と思った。
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