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仰向けになって足を開くのは、まだ結構恥ずかしい。たとえ部屋の電気が消されていて、辺りが暗かったとしてもだ。聖臣の目は見失ったかと思えばすぐにまた光り、その存在を知らしめている。
聖臣の手が、私の体をまさぐる。そこまではいいのだ。私の中心――足の付け根の、股の間に触れる時、私の腹にぎゅうと力が入る。あまり力むのはよくないと聞いたことがあるけれど、緊張せずにはいられない。
聖臣の手は、宥めるように陰核を触る。確かに、気持ちいいという感覚はある。声を出すことは恥ずかしくてできないけれど、ベッドの上で腰の位置を微妙にずらしていないとそのままでは落ち着かない。私の尻の丸みをつうと愛液が伝うのがわかる。多分私は今、感じている。
それでも聖臣の指が膣に入った時、私は奥歯を噛まずにはいられなかった。耳鼻科で診察を受けている時のような異物感。私でないものが、私の中に入ってきている。「気持ちいい」が遠くなる。代わりに不安に似た何かが私の中に込み上げる。痛いのかどうか自分でもわからない。ただ、心地悪いという感覚がある。
「い、たい」
結局、私はそう申し出た。まるで歯医者ですぐに右手を挙げる幼子のように。私の痛みはないわけではなかったが、決して我慢できないものではなかった。では、何がダメなのか。それは恐らく、私の心構えのようなものだ。
「じゃあやめるか」
聖臣は、素直に退いた。指を抜く瞬間、体に僅かな痛みが走る。入れられている時の痛みなんてそれ以下だったのに、事が済んだ今私は安堵している。
聖臣に呆れたような気配はなかった。ただ粛々と後片付けをしている。彼が持っているローションは、既に一割程度減っていた。私達が性行為に失敗するのはこれで二度目だ。
私はそそくさと服を集め、最低限の下着を身に着けた。聖臣はベッドの淵に腰掛け、何やら前屈みになっていた。
「あんまり見られたくないんだけど」
その言葉で、聖臣が自分の後始末をしていたのだと知る。私は効果音でもつきそうな勢いで顔を背け、ベッドに大人しく横たわっていた。聖臣の方がひと段落ついたらしい、と察知したのは、彼が吐いたため息の音のせいだ。どこか安堵したような――それでいて寂しさを感じさせるような声色に、聖臣が本来私へぶつけるべき熱をティッシュの中に吐いたのだとわかった。聖臣は物音を何度か立てた後、私の隣に潜り込んだ。
気まずい、というのが正直な感想だ。性行為ができないからと言って聖臣が私を捨てるとは思わないけれど、彼女として不甲斐ない事実に変わりない。私達だってもう高校生なのだし、周りは卒業している。男子の中でそういった話になった時、聖臣はどう答えるのだろうと思ったら苦しくなった。
できないのは私なのに、すぐに退く聖臣にも責任を求めてしまう。私のためを想ってくれているのはわかるけれど、もっとこう、求めるような気持ちはないのだろうか。自分から辞退している身で、私は聖臣が強制的に事を進めてくれればできるのではないかと思っていた。聖臣の気持ちは十分にありがたい。でも、断られてすぐに引き下がられると、それはそれで物足りなくなってしまう。ティーン漫画で読む男の子は、いつだって無理やりに事を進める。
「なんかもっとこう、無理やり? 襲うとかないの」
失礼を承知で、私は申し出た。聖臣の視線が私を捉えるのがわかる。このまま襲われてしまったらどうしよう。いざとなると怯えるくせに、私は聖臣の欲を求めている。
「それは経験豊富な奴にすることだ。処女じゃなくてな」
そう言われれば、私は黙るしかない。聖臣だってしたことがないくせに、私より随分と堂々としている。それがまた私の不満を煽る。
「無理やりされたかった?」
思ったより優しい声色で聖臣が尋ねた。私はじっくり間を溜めた後、小さく頷く。
「うん」
「いつかしような」
聖臣の手が頭を撫でた。その手を受け入れながら、これが今まで私の体の奥を触っていたのだと吟味した。
「その前に普通のセックスをする必要がある」
急に真面目な声色で聖臣が言う。二度あることは三度ある、私達が性行為を達成できる未来は視えない。
「できるかな」
「そのうちできるだろ」
聖臣の優しさが胸にしみた。少なくとも聖臣は急がない。性行為をした後も、その後のことを考えてくれる。
果たして私達が無理やりの行為をする日が来るかはわからないけれど、まずは聖臣の手を受け入れることだけ考えていようと思う。手を伸ばして聖臣の手を握ると、聖臣も握り返してくれた。
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