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 今日も激務で帰宅できるのは時計の針が零時を回った頃だ。僕や男共は別にいいとして、警備企画課唯一の女性である苗字はどうだろうか。彼女も護身術の心得があるし、身の危険は大して心配していない。心配しているのは、二十代という女にとって大事な時期をすべて仕事に捧げて婚期を逃さないかどうかだった。彼女は、僕に憧れて警察に入った。そのまま公安に配属され、デートする暇もないくらいの毎日を過ごしている。彼女を公安に入れたようなものである身からすると、申し訳なく思うのだった。

「結婚したくなったら言え。僕が責任を取ってやる」

 結局、帰りにタクシーを呼んだ。彼女が襲われるとは思っていないけれど、なんだかんだ唯一の女部下として気にかけている。僕も途中まで同じだからとタクシーに乗り込み、口を突いて出たのが先程の言葉だ。彼女は驚いたように目を丸くしていた。責任を取ると言っても、彼女に手を出したわけではない。僕に憧れて警察に入って、若い時間を消費した方のことだ。

「上司としての降谷さんは尊敬してますが同じ家庭に入るのはちょっと……」

 あろうことか、彼女は僕を断った。断られるのは初めてのことで、僕はやや傷付く。

「僕をフるつもりか?」
「そもそも告白されてないです」

 それはまるで告白しろと言っているかのようだ。だが、僕は彼女を恋愛の意味で好きなわけではない。彼女とて、僕を好きなわけではないだろう。

「別に惚れてるわけじゃない。責任を感じてるだけだ」

 面倒な人だ、とでも言いたげな視線が彼女から寄越された。後から婚期を逃したのは僕の責任だ、と言われても知らないからなと言いたいのを堪え、僕は腕を組む。

「私に他に好きな人がいるかもしれないじゃないですか」
「いるのか?」

 僕は知らず知らずの内に鋭い視線になる。彼女は笑って、「いませんよ」と言った。いないならいないで、最初からそうと言えばいい。からかわれた気になって僕は大層不服だった。そんな僕をあしらうように、彼女は自宅の前に着いてタクシーを降りた。彼女に好きな人がいたら嫌だと思うのは父親心からか、それとも勝手に責任を取ろうとしていた僕が馬鹿みたいだからか。今は疲れていて、よくわからない。