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 研磨の部屋を訪れると、研磨はヘッドホンを付けた状態でゲームをしていた。私が来たことにも気付いていないだろう。気付いたところで研磨がゲームから手を離して「いらっしゃい」など言うところは想像できないのだけど、少しは反応を示してほしいものである。私は研磨に歩み寄り、ゲームに一区切りついたのを確認してからヘッドホンを取り上げた。

「これから研磨の家行くって私連絡してたよね?」
「聞いてたけど、おれがゲームしてたって名前は気にしないじゃん」

 確かに私は研磨がゲームをしていても無視して用を済ませることが多い。だがそれは研磨がゲームに熱中していることに慣れきっているだけで、許しているわけではないのだ。研磨自身のためにも来客は対面して迎える癖をつけた方がいいと思う。何と言うべきか逡巡し、咄嗟に出てきたのがこの言葉だった。

「研磨はゲームと私どっちが大事なの?」

 まるで恋人同士のような台詞だが、私が来た状況でゲームをしている研磨を咎めるにはこれしかない。研磨は案の定可笑しいような笑みを浮かべていた。

「おれと名前は付き合ってないけど」

 普段ならば馬鹿にするなと言いたいところだが、私の頭にはとあることが閃いた。何しろ今は研磨のゲーム愛を目の当たりにした直後なのだ。

「付き合ったら、研磨の中で一番になれるってこと?」

 研磨は理解できていないような表情をしていた。だがこれは一大事だ。研磨にゲーム以外のことへ目を向けさせるいい機会かもしれない。

「研磨の中でゲームより上になれるってすごいよ! 試しに私と付き合って!」

 研磨は眉根を寄せて私を見た。私が来てもゲームをしたままの研磨を咎めるはずが、気が付けば逆の状況になっている。

「理由がそれだけなら付き合わない」

 研磨は恋愛方面でからかわれることに慣れていない。やや不機嫌そうなその顔を、さらに顰めさせることを私は言ってしまう。

「じゃあ恋愛感情があれば私は結構アリってこと……?」

 すると研磨は弾かれたように立ち上がって私を出口へと追いやった。

「もうそういうの本当にいいから。名前なんかの話に乗ったおれが馬鹿だった。出てって」
「ごめんごめん! 研磨に恋愛感情なんてないから! もうからかわないから!」

 研磨と私で恋愛絡みの話をしないということを約束したのに、研磨はどこか不機嫌な様子だ。

「ほんっとにわかってない」

 多分今は何を言っても刺激してしまうだろうから、私は好物のアップルパイで釣ることにした。