▼ ▲ ▼

 花火大会があるから残業を代わってほしい。それが社内恋愛をする同期二人からの頼みだった。断るわけにもいかず、世の恋人達が花火に浮かれる中私はオフィスに残っている。一人きりではないのがせめてもの救いだ。

「私達って本当に、損な役回りですよね」

 同じく残業をしている観音坂さんに話しかける。どうせ集中力は切れているのだから、雑談をしながらやったところで仕事の出来は大して変わらない。

「はは……俺はどっちにしろいつも残業だから」

 観音坂さんは、確かにいつも残っている気がする。課長に目をつけられているのかそもそもの仕事量が多いのか、定時に退勤しているところは見たことがない。

「たまには楽しみとかないんですか?」
「今日の花火はちょっと、楽しみかも」

 観音坂さんは窓の外に目を向けた。つられて私も見ると、ビルの谷間から大きな花火が見えていた。

「わぁ……ここって意外に穴場だったんですね」

 花火がやっている中残業など虚しいと思っていたけれど、花火を見ながら仕事ができたらしい。仕事をしていることには変わりないが、花火の音と光に少しの癒しを貰う。私の心がいくらか前向きになったところで、観音坂さんはキーボードを叩く手を止めた。

「俺達、お膳立てしてるんじゃなくてされてる方なんじゃない?」

 一体何を言い出すのだろう。私も手を止め、観音坂さんの方へ椅子を向ける。

「同期に早く上がるように頼んだんだ。今日、君と二人きりになりたくて」

 どうやら、恋の始まりは花火大会会場で起こるとは限らないらしい。何の変哲もないオフィスにも恋は芽生えるのだ。私はもう残業どころではなくなってしまった。とりあえず観音坂さんと花火を見ようと思う。観音坂さんのことをどうするかは、その後決める。