▼ ▲ ▼
標的である南雲を連れ出してホテルに入ることに成功した。個室に入るなり、南雲は私から離れた。通常の標的はホテルの部屋に入った途端にキスや愛撫を始める男が多かったので、やや意外に思う。南雲は私の目的など見透かしたように、ポケットからUSBを取り出した。
「キミの欲しい情報はこのUSBの中に入ってるよ」
南雲は私が南雲の持つ情報目当てに近付いたことをお見通しだったのだ。侮られているようで悔しく思う。南雲は簡単に私へUSBを渡した。
「情報のためにセックスするの嫌だからさ、心も体も気持ちよくなるためにしよ?」
私の目的が南雲の情報ならば、南雲の目的は私の体だったのだ。私だけが目的をもって近付いたわけではなかった。南雲の言い方はまるで恋人同士のセックスのようで反吐が出る。
「情報をくれたらもうハニートラップをする必要がなくなるとは思わなかったの?」
目的のUSBは南雲のおかげで手に入れたのだ。もうこれ以上南雲に構う必要はない。ドアを開けようとすると、鍵がかかっていることに気付いた。このホテルは内側からしか鍵をかけられないはずなのに。
「キミこそどうして僕の許しなしにこの部屋から出られると思ってるの?」
ゆらりと気配がして、南雲が私の背後に近付く。鍵は相変わらず開かない。目当てのUSBはもう私の手中にあるのに、南雲とセックスをしなくてはいけないのか。
「罠にかかったのはキミの方だったみたいだね」
私は悔しさから唇を噛んだ。南雲が前々から私を知っていて、今回のハニートラップを機に体を重ねることを選んだはずがない。裏社会の人間のくせに、ハニートラップのたびに恋人同士のようなセックスを求めている南雲に嫌気がさした。これならまだ無理やりされた方がましだ。
「さ、しよ? 名前ちゃん」
もう本名を知られていることにも驚かない。私は諦めてベッドについた。
/kougk/novel/6/?index=1