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「後ろの席! 絶対後ろの席がいい!」

 三カ月に一回の席替えが訪れた。今牛島の隣の苗字は、後ろの席を熱望している。後ろの席を希望する者と言えば、授業に集中していない者というイメージで大方合っているだろう。

「苗字は意外にも不真面目なのだな。授業中内職でもする気か?」

 この三カ月で雑談ができるくらいに牛島と苗字は仲良くなった。苗字は何故か顔を赤らめ、前を向く。

「そんなんじゃないよ……牛島くんは背高いから後ろの席確定してていいな〜」

 まさか牛島も、苗字が後ろの席を希望する理由が自分の存在だとは気付いていないだろう。

「ずるいと言うつもりなら教師に頼んで前の席にさせてもらう」
「それは困る!」

 突然大声を出した苗字の剣幕に牛島は驚いた。牛島が前の席になったら苗字が後ろの席を希望した意味がないからなのだが、牛島は何故苗字が牛島の座席にこだわるのかわからない。

「ほら、後ろの人が黒板見えなくなっちゃうから」

 絞り出したように苦しまぎれの答えを言うと、牛島は納得したようだった。

「そうか。しかしそこまではっきり困ると言われると傷付く」

 まるで牛島が大きくて邪魔であることはクラスの共通見解だと言われているかのようだ。大抵のことには動じない牛島とて、苗字にそう言われれば傷付く。

「大丈夫、みんな牛島くんのこと好きだから!」

 牛島はクラスで嫌われているわけではないとフォローしたつもりだった。が、気付いたら苗字は牛島に告白しているような気がする。「みんな」と言うからには恋愛感情の意味と受け取られないだろうが、好きな相手に好きと言ってしまった事実には変わりない。

 そっと牛島を窺うと、牛島は「そうか」と言って口元を緩めていた。よかった、告白されたとは思われていないみたいだ、と苗字は思う。冷徹に見える牛島にもクラスメイトに好かれていると知って喜ぶ一面があるのだ。苗字は少し意外に思った。苗字本人は、牛島が喜んだのは苗字に言われたからだと知らない。果たしてこの二人はまた近い席になれるのだろうか。それは神のみぞ知る。