▼ ▲ ▼

 朝、疲れからかよく眠っている桂さんを見下ろした。桂さんが真選組に追われているので泊めてほしいと言って来た晩の、翌日のことである。桂さんはいかにもな堅物だし、私と付き合っているわけでもない。付き合ったならば手を出すのはいつだろうとか、私以外の魅力的な女性の元に泊まった晩にはそういうことをするのだろうとか考えてしまうが、とにかく昨晩は何もなかった。それどころか、私達は布団を並べて共に寝た。布団が一組だけならば桂さんと同じ布団で眠るいい理由になったかもしれないけれど、そんな度胸のない私は桂さん用の布団を買っていた。桂さんが私をどれくらい気安い仲だと認識してくれているかはわからないが、とりあえず今回もうちに来てくれた。だが、次はどうだろう。次はまた別の、もしかしたらグラマラスな女性の家に泊まるのではないか。そう思った瞬間、私は口に出していた。
「私以外の家に泊まらないでください」
 それと桂さんが目覚めたのが同時である。桂さんは目を瞬いて私を見ていた。その反応を見て、聞かれたと思った。
 桂さんは私の言葉に言及することなく、「ちょっと歯を磨く」と洗面所にこもり、それから「ちょっと聞かないでいてくれ」と厠にこもった。私の好意は多分バレてしまった。桂さんのために買った布団も、もう出すことはないかもしれない。一時的にでも桂さんが使っていた布団に、別の友達を寝かせたくはなかった。
「それでな、先程の、例のことだが」
 私の家を出る時、桂さんはわざとらしく咳ばらいをした。桂さんは恋愛にかまけていられないから迫られても曖昧にするようなイメージがあったけれど、意外にも言及するのだ。失恋手前になって、私は変に緊張する。これから先私に待っているのは、破滅だけだというのに。
「名前殿がそんなに攘夷活動に積極的だとは思わなかった。是非一緒に来てくれ」
「は?」
 私の桂さんへの独占欲は、攘夷活動への意思とみなされたらしかった。桂さんは少しぼけた人だと思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。私と布団を並べて寝ていたのも、本当にそういう経験や考えがないからなのではないか。
 桂さんに手を引かれるまま赴くと、そこには攘夷浪士がたくさんいた。桂さん達のアジトに連れて来られたのだろう。いよいよ私はテロリストの仲間入りである。
「皆の者、聞けい。これが俺を泊めてくれる名前殿だ」
 桂さんは声を張るが、攘夷浪士達はUNOに興じていて全く目を向けない。普段なら桂さんの威厳とは何なのかを考えているところだが、今日は有難い。私の家が攘夷浪士達の泊まり場になっては困る。私は桂さんだから泊めていたのだ。
「流石にここにいる人達のことも全員泊めるのはちょっと……」
 私が言うと、桂さんは真顔のままこちらを向いた。
「その通りだ。名前殿の家には俺しか泊めてほしくない」
 驚く私に、「今朝名前殿以外の家に泊まらないでほしいと名前殿も言っていただろう」と桂さんは返す。今朝のあの発言が聞かれていたことが確定したわけだが、そんなことはどうでもよかった。私は桂さんの発言の真意を、確かめなくてはいけない。
「それは、何でですか」
「自分の胸に聞いてみろ」
 桂さんは(全員に発言を無視されていようが)リーダーらしく、自信に満ち溢れることを言った。それは多分、私が桂さんに他の人の家に泊まってほしくない理由と桂さんが私の家に他の男を泊まらせたくない理由は同じだということなのだろう。私はそう解釈しているが、どこか抜けている桂さんが同じことを考えているかはわからない。好きですが好きですかとこの場で叫ぶべきなのだろう。私が本当にそれを実行して、アジトが静まり返るまであと五秒。意外にもリーダーの気質は、私にあるのかもしれない。