▼ ▲ ▼

 現在、私と元也の二人は聖臣の目の前で正座していた。事の発端は昨日に遡る。私が電話をかけて「元也? この間のデートで買った服なんだけどさ、」と切り出すと、元也より数段低い声が返ってきた。

「元也は今着替えてる」

 誰かとは聞かなくてもわかった。聖臣だ。恐らく今は部活の居残り練習をしていて、スマートフォンに表示された名前が私だったから元也は出られない旨を伝えようとしたのだろう。しばらくの沈黙の後、ようやく私は言葉を絞り出した。

「そう、じゃあまたかけ直すから」

 結局、私から元也にかけ直すことはなかった。代わりに、元也から聖臣が翌日自分の家へ来るように言っているということを知らされた。遂にこの日が来てしまったのだ。明らかに不機嫌な聖臣を前にして、私は拳を握る。

「何で付き合ってること俺に言わなかったんだよ」

 聖臣に睨まれ、口を開いたのは弁の立つ元也だった。

「俺達、小さい頃から三人でやってきただろ? だから二人で特別な雰囲気になっちゃったりしたら、聖臣に悪いかなぁと思って」
「そうやって変に気を遣われるのがむかつく。俺は子供じゃない」

 元也の選び抜いた言葉も聖臣に真っ二つにされてしまう。私は恐る恐る顔を上げた。

「あの、確認なんだけどさ、私のこと好きだったとかじゃないよね?」
「ない。断じてない。お前のことを性的に見たことは一度もない」
「そっか……」

 結構勇気のいる発言だったのだが、先程よりも早く言い返されてしまった。幼馴染で三角関係という少女漫画でしか見ないような関係にならずに済んだのは幸いだが、そこまで言われると私の何かが傷付く気がする。

「じゃあ聖臣は俺の私がー、とか俺の元也がとられたって気持ちではないんだ?」
「俺の名前だし俺の元也だ。お前達が互いに独占することは許さない」

 先程子供ではないと言っていたばかりだというのに、まるで幼稚園児のような回答がされる。恋人なのに元也を聖臣と分け合うとはどういうことなのだろう。やはり三角関係ではないか。

「でもさぁ、やっぱり俺達二人は恋愛関係になっちゃったわけで、そこに聖臣を混ぜて三人でやるのは難しいと思うんだよね。あ、夜の話じゃねぇよ?」
「当たり前だ」

 元也の話に下品な雰囲気を感じ取ったのだろう。聖臣は今日一番の嫌そうな顔をした。確かに夜に聖臣を混ぜるのは私も嫌だ。

「とにかくお前らは俺のものだ。お前達が別れて気まずい雰囲気になっても俺からは離れるな」
「えー、別れても幼馴染は難しいかも」
「俺がいる場では適当にやり過ごせ」

 私達二人に命令するさまはまるで一昔前の旦那のようである。聖臣の関白宣言を受け、私は面倒くさい幼馴染を持ってしまったものだと項垂れた。