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 坂本さんの知り合いで変装の達人がいる、と聞いて私は「見てみたーい」と声を漏らした。その言葉は、どこかで南雲さんに届いていたのだろう。南雲さんと名乗った人は、初めましてで変装を見せてくれるのかと思いきや一度も姿を変えないままその日は去った。以降、坂本商店に現れるたび違う顔をするようになった。南雲さんはその場で変装をして解くのではなく、毎回変装をして来るのだ。坂本さん達は一度だけ南雲さんが素顔で来ていたと言うが、私にはどれだかわからない。毎日毎日違う顔で来店されると、遊ばれているような気になってくる。
「南雲は名前さんが好きだからからかってるんだって。しょげないでよ名前さん」
「そーそー。僕名前ちゃんが好きだからやっちゃうんだよ。見事に騙されてくれるのが面白くて」
 しょげている私に対し、シンくんと南雲さんが声をかけてくる。でも、その顔すら素顔ではないのだろう。私は急に振り向き、南雲さんの頬をつねった。
「好きって言うなら素顔見せてよ!」
「うーん、もう少し楽しんでいたいかも〜」
 南雲さんの変装は余程作り込んであるのか、頬を引っ張ったくらいではとれない。コナンではお決まりの変装剥がしも、南雲さんには通用しないようだ。ここまで遊ばれては、何としても南雲さんの素顔を見たくなる。坂本さんもシンくんも南雲さんの素顔を知っていて、私だけが南雲さんの素顔を知らないのでは悔しい。
 その時、妙案を思いついた。誰しも水に濡れる場では変装を保てないだろう。要するに、南雲さんをお風呂に入れればいいのだ。
「南雲さん、お風呂入ろう! ていうか入って!」
 すぐそばで聞いていたシンくんが「えっ」と言うのが聞こえた。私達は成人した男女であり、付き合っている関係でもない。普通に考えれば抵抗を持つべき場面なのだが、私はようやく南雲さんの素顔を見る手段を思いついたとハイになっている。
「……いいの?」
 妙に照れたような南雲さんの姿を見て、私は南雲さんが「私を好きだから」からかっていると言っていたことを思い出した。私は、私を好きな異性と一緒に風呂に入ろうとしている。
 そのことに気付いた時もかなり衝撃的なのだが、私に風呂に誘われた時の南雲さんの表情は素のものである気がした。顔の造形は変わっていようと、作り出す表情は南雲さんのものなのだ。
 今度は私まで言葉を失っていると、シンくんが「もー」と言った。
「そういうのは、よそでやってくださいよ」
 私達は今、からかう人とからかわれる人ではなく男女になっているのかもしれない。というか、南雲さんの中ではずっとそうだったのだ。南雲さんの表情を見ていたら、そう思えた。