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「このDVDのうちどれかに試合映像が入っとるはずなんやけど、確認しといてくれるか?」

 北さんに頼まれ、私は部室でDVDを再生していた。量はそこまで多くなく、全て確認したとしても三時間くらいだろう。一枚目は去年の三年生を送る会の映像だった。冒頭から試合ではないとわかっていたとはいえ、途中から試合に切り替わる可能性もあるので最後まで確認しなくてはならない。一枚目を終えようとした時、部室の扉が開いた。

「何もできひんのに見とんのもつまらんくて」

 私の視線に答えるように治は言う。治は軽い怪我を負って見学中なので、動くことができないのだ。DVDの確認に人員を割く必要はないのだが、先程のような映像であれば二人で見た方が面白いだろう。

「今試合映像探しとるとこ」

 そう言って私は二枚目のDVDをセットした。砂嵐のような画面が映った後、二人の男女が現れる。私は思わず身構えた。この雰囲気はもう、それにしか見えない。

 私の疑惑を決定づけるかのように二人はキスを始めた。それも絡み合うような、濃厚なキスだ。女の服は段々はだけていっている。疑う余地もなく、これはアダルトビデオだろう。私は治の顔を確認したい気持ちを必死に我慢した。ここで何か言ったり不審な動作をすれば、意識しているみたいになってしまう。早送りにすることもできたはずなのに、それすらしないまま私達はアダルトビデオを見続けた。部室で、部員とアダルトビデオを見るなど変な話だ。映像が進むにつれ自分が緊張していくのがわかる。遂に男役が竿を出した時、治は唐突に立ち上がった。私が思わず肩を跳ねさせたのは治の視界に入っていなかっただろう。治は部室の鍵を閉めた。ただ単にアダルトビデオを見ている姿を見られたくなかったのか、私との間に他人を入れたくなかったのかはわからない。恐らくは前者だろう。アダルトビデオを見ているせいで、私は意識しすぎなのだ。

 試合映像を探すという目的も忘れ私はビデオに見入った。私一人なら呆れて早送りにするだろうが、治がそれをさせないのだ。張り詰めた空気の中、「苗字」と治が唐突に口を開いた。

「意識しとるん?」

 異性と二人きりでアダルトビデオを見ているという状況で、そんなことを聞く男があるだろうか。私達は付き合っているわけでもないのだ。私はいつも通りの声を出そうと努めた。

「別に。治こそ足怪我しとるんやろ。部室で突っ立ってないで体育館で座ってた方がええんちゃう?」

 苦し紛れの一言に、治はとんでもない言葉を返す。

「怪我しとるのはアソコやないよ?」

 治は一体どういうつもりでこの言葉を言ったのだろう。治の大事な所を怪我していないとして、それが一体何に影響するのか。確かめるのも恐ろしくて、私は唾を飲み込んだ。