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「この稼業引退したいなぁ」
 ふと呟いた私を、クロロが意味ありげな目で見た。とある日曜の午後の話だ。
 物心ついた時から、私は普通の女の子ではなかった。荒くれ者ばかりが集う街に生まれ、生きていくために情報を入手するすべを覚えた。それがいつしか仕事になり、今は闇社会の情報屋として名を馳せている。一番のお得意様は幻影旅団で、旅団を狙っている者がいれば念能力を教えたり、逆に旅団から次の標的の調査を依頼されたりする。なんとも敵を作る職業だ。私がこれまで生きてこられたのは、逃げ足だけは速いのと旅団がある程度目をかけてくれるからだろう。情報屋をやめるとなればその必要もなくなり、私はフリーの状態で世に放たれる。
「お前に恨みのある者は沢山いるだろうな」
「だよねえ……」
 花屋で買った花を家に飾り、休日は優雅に喫茶店でコーヒーを飲むなんて日常は私に訪れないのだ。旅団と出会う前の、死と限りなく近い日常を送るしかない。
「じゃあ私は情報屋続けるしかないかぁ」
 そう言った途端、クロロが「もう一つある」と言った。クロロが聡明なのは私もよく知っているところだ。クロロの言う選択肢に耳を澄ませる。
「自分を守ってくれる相手と一生添い遂げることだ」
「それって結婚ってこと?」
「そうだ」
「相手に何のメリットがあるの?」
「普通の結婚と同じだ。好きな相手と添い遂げられる」
 そして、と言葉を区切ってクロロは指を立てた。
「ここにお前に惚れている男がいる。強さは指名手配書でも見ればいい」
 クロロは一体何を言っているのだろう。クロロの強さなんて、私がよく知っている。今更新聞や手配書を見る必要はないのだ。素直に好きと言うのではなく、理詰めで自分と結婚するメリットを説いてくるのもクロロらしいと言えた。私はクロロの性格までよく知っている。好きな飲み物も、本を読む時の癖まで全部。
「お前がオレを好きでなくても構わない。オレがお前を守ることに意味がある」
 クロロは紙幣を置いて出て行った。情報料にしては高い値段だ。私はこれからクロロにどんな顔をして会えばいいのかわからない。でも、クロロは普通の顔をして会いにくるのだろう。次クロロの気持ちに対して返事をしたら、仕事の話の最中だと怒られてしまうだろうか。きっとクロロは、目を細めて笑ってくれる気がする。