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「愛されてるねえ」
 旅団での会議とも言えない話し合いが終わった後の、マチの言葉だ。誰から誰へのことかは言うまでもない。クロロから私へ、だ。
 本来、クロロは圧倒的な実力者であり旅団の団長だ。そんな人に愛されていたらさぞかし都合がいいだろう。私達が少し前に別れた元恋人同士でなければ、に限る。
 私とクロロは裏社会で出会い、クロロからのスカウトで旅団に入った。クロロは私を新米として気にかけてくれた。クロロに夜の誘いを受けた時、誰にでもそうしているのだろうと思ったがそうではないと知ったのは何度か枕を共にしてからだった。朝が来た時愛おしそうに私を見つめるクロロを見て、腹の中で渦巻いていた予感は本当らしいと実感した。曖昧な関係は嫌だから、と付き合おうとしたのは私からだった。今思えば、区切りを設けない方がよかったとも思う。その方がまだ、別れた後が楽だっただろう。
 クロロに別れ話をした時、クロロは驚くほどあっさりと受け入れた。案外私のことなど好きではなかったのだと拍子抜けしたほどだ。しかしそれは最初だけで、クロロは付き合っていた時のように私を旅団内の仕事でも守りたがる。決して一人では仕事に行かせないし、団員には私を守るよう申し付けている。もう付き合っていないのだから私のことなど放っておけばいいのに、クロロは私の特別扱いをやめない。フィンクスなどは私達がまだ付き合っていると勘違いしているほどだ。私はしびれをきらして、クロロに直談判した。
「私を特別扱いしないで」
 クロロは読んでいた本から顔を上げた。今アジトに使っている雑居ビルは静かで、薄暗い。そのせいかクロロの表情が凄んで見える。
「無理だ。オレはお前を好きだからな」
 そういう風に、堂々と私を好きでいるのをやめろと言いたいのだ。普通同じグループ内で付き合い、別れたら少しなりとも気まずくなるとか、距離をとるものだろう。クロロは私なんかを引きずっていると周りに宣言するような行為をして、恥ずかしくないのだろうか。多分恥ずかしくないからやっているのだろう。
「だから困るの。クロロが態度を直してくれないなら私が旅団から出て行く」
 その一言でクロロの瞳がぎらりと光った。目に見えない圧とはこういうことを言うのだろう。蛇に睨まれた蛙のように、私は小さくなる。
「それはダメだ。ならオレが蜘蛛をやめる」
「それは……」
 私は言葉を詰まらせる。クロロが旅団を抜けることはあってはならない。こう言えば私が引き下がるとわかってやっているわけではないのだろう。クロロは、私のためなら本気で旅団すらやめてしまう。それくらい私が好きなのだ。だが私にとって、旅団の存在や旅団の頭としてのクロロの存在は大きなものだった。
「で、結局振り出しに戻ったってわけね」
 クロロと二人で会った後、相変わらずクロロに気を回されてばかりの私を見てマチが言う。私は一生、クロロに特別扱いをされるのかもしれない。それが嫌ならば、クロロと復縁するしかないのだ。なんと嫌な二択だろうと思ったが、クロロと付き合っていたことを後悔する気にもならなかった。結局、あの頃の私の恋心は本物だったということだ。世間のままならさに、私はため息をついた。