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 テスト休みに入る前の最後の放課後練習の後、私は北さんを待ち伏せした。テストというのはチャンスだ。恋する乙女にとっては嫌な定期考査も気になる異性と近付く絶好の機会だし、部活がなくなれば普段とは違う北さんが見られる。今回、私は「勉強を教えてください」という使い古された方法で行くことにした。自分も勉強しなければいけない中で、後輩に勉強を教えてほしいとせがまれるなど下心が見え見えかもしれないがそれでいいのだ。北さんはとうに私の恋心に気付いている。気付いた上で、見ないふりをするでもなくそのままにしてくれているのだ。それは私が告白していないというのが大きいだろう。直接告白や交際の申し込みをすれば北さんは必ず真摯に向き合ってくれる。だが今はその時ではない。まずは、距離を縮めることからだ。

「北さん!」

 校門前で待っていると、最後の方になって北さんが出てきた。職員室に鍵を返しに行っていたのだろう。北さんは私を見て眉を上げた。

「何しとんねん。女子ははよ帰り」
「北さん、私に勉強教えてください!」

 私は北さんの小言を無視して頼み込む。北さんは真顔のまま数秒私を見つめる。北さんは面白いと思っている時でも怒っている時でも真顔なのでやや怖い。たっぷりと間を空けて、北さんはようやく口を開いた。

「それって要は俺とイチャつきたいってことやろ。俺もテスト勉強する時間なくなるしお前も絶対集中できんやん。するならテスト終わってからのデートにし」

 私は呆然として北さんを見た。北さんには全てお見通しなのだ。私に勉強する気がないということも、私の下心も。その上で具体的な改善策を提示してくれている。

「じゃあテスト明けどこか連れて行ってください……?」

 流されるようにその案に乗れば、北さんは「よし」と言って歩き出した。これは自分のテスト勉強が邪魔されずに済んだという安堵なのだろうか。それとも、私とプライベートでどこかに出かけるということに北さんも少なからず喜んでくれているのだろうか。動揺している間もなく、私は北さんの背中を追いかけた。

「北さん、私はイチャイチャできる所がええです!」
「アホか、初デートで二人きりになる場所行くわけないやろ」

 北さんの固いところは相変わらずだ。だが北さんが「デート」と言ってくれたのが嬉しくて、そこには目を瞑ることにした。何を着て行こう。などと浮かれてテスト勉強を疎かにしたら、北さんに怒られてしまうだろうか。