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「俺に養われろ」
 幼馴染である爆豪に飲みに誘われたのが数週間前のことだ。高校に入ってからは別々の道を歩んでいるものの、私達は頻繁に連絡をとっていたしこうして会っていた。だが、出久などを交えずに二人きりで会うのは久々だった。その時点でなんとなく予想はついていたものの、爆豪は私に異性としての好意がある旨を告げた。爆豪が選んだバルは程よい喧騒があって、私達の沈黙を埋めてくれる。爆豪はグラスのきらめきに視線を落とした。
「気付いてるかもしんねぇけど、俺はお前が好きだ。俺達の仲で、この歳で、付き合うとか好きだの言ってらんねぇだろ」
 だから、爆豪は「付き合ってほしい」ではなく「結婚してほしい」というようなことを言ったのだろう。正確には「結婚してほしい」でもなく「養われろ」なのだが。
 私は返事ができずにいた。私の手の中のグラスは汗をかいて、まるで私の内面を象徴しているようだった。私は一度目を閉じ、思考をクリアにする。こういう時は冷静にならなければいけないものだ。
 まず、爆豪のプロポーズとも告白とも言えない言葉に対する私の答えはイエスである。私も爆豪が好きで、今日は少し気合いを入れてメイクをしてきた。だが私は「養われろ」という言葉にどうしても頷けなかった。私は現在障害年金を受給中であり、高額納税者の爆豪からはとっくに養われているも同然なのだ。
 数年前、私は敵が起こした事件に巻き込まれた。逃げ足が遅れ建物の柱が私の足に命中し、私は人工関節で生活している。今は障害年金を受給しながら、無理のないパートタイムで働いている。世間では金食い虫ともやゆされるが、爆豪がそんな偏見を持つとは思えない。問題は爆豪のプロポーズの仕方、それだけなのだ。ただ「結婚してほしい」「付き合ってほしい」と言われたら私は頷けただろう。だが爆豪の金で養われろと言われたら、既にそうですと言うほかない。難しい顔をする私を見て、爆豪は意外にも静かな表情をした。
「嫌だったか」
「いや……もう養われてるから……」
「は?」と爆豪が困惑する声がする。
「妄想癖でもあんのか。つーか俺のこと好きなんか」
「いや、好きなんだけど、これは妄想じゃなくて現実で……強いて言えば爆豪の言い方が悪くて……」
 プロポーズされてダメだしをする私に対し、爆豪は普段の勢いを取り戻す。
「じゃあ何だ。好きな口説き文句言ってみろ。再現してやるよ」
「そうじゃなくて」
 私が障害年金を受給している話をすると、爆豪は一瞬目を見開いた後「そんな深刻なこと早く言えよ」と険しい表情をした。ロングスカートで隠れている私の足に視線をやる。流石に人目がある中でスカートをまくることはしないらしい。
「知ってたら階段のない店にしたっつーの。つーか、そんなハンデあんなら尚更俺に守らせろ」
「養われろ」には頷けないけれど、これには頷ける。私はグラスを両手で持ち、爆豪を見上げた。
「うん。よろしくね、爆豪」
「当たり前だっつーの」
 爆豪はグラスの中身を飲み干した。店を出る時、地下のバルから地上に上がるのにお姫様抱っこをされた時は流石にやりすぎではないかと思ったが今日だけは甘えておく。今日は私達が恋人になった特別な日なのだから。
 そんなことを言っていたらデートをするのに短い距離でもすぐにタクシーを呼ばれるような生活になってしまったのだが、それはまた別の話だ。