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鬼の子供に欠かせないのが性教育である。鬼が子を作れば当然鬼が生まれてくる確率は高いし、その子供に不自由な人生を強いるかもしれない。それどころか、相手が桃の罠だという可能性もある。罠でなくても、桃と鬼との間に生まれた子供の人生は地獄だろう。鬼として生まれた者にとって、性行為は簡単にしていいことではないのだ。
「相手と機会は慎重に選べ。間違ってもその場の勢いでするな」
無陀野は黒板の前に立ち、生徒達に説いた。本来、性とはオープンに話すべきではないことだ。無陀野が受け持っている生徒には女子もいる。あまり気は進まないが、一大事になってからでは遅い。生徒達も気まずいのは同じだろうし、大人しく座学の授業を受けてくれるだろう。そう思っていた無陀野が間違いだった。
「じゃあムダ先って童貞なの?」
手を挙げたのは四季である。遠慮がないのは相変わらずだ。正直に答えれば無陀野は勿論童貞ではないが、今回の授業はそういうことを暴露する回ではない。
「場をわきまえろ」
無陀野が注意した途端、遊摺部がそれに乗っかる。
「そうですよ。無陀野先生が童貞なわけないでしょう。つまり、無陀野先生は毎度じっくり相手を見極めて事に及んでいるということですか? 鬼の性生活の参考として興味があります」
遊摺部は四季に注意するのではなく、もっと激しい質問をぶつけてきた。普段から接している身として予想できることではあるが、そのセクハラが自分に向けられると妙に腹が立つ。いや、自分の恋人に向いても嫌なのだが。遊摺部の質問に答えるなら、無陀野は毎回相手を変えているわけではない。鬼だから慎重になっているのではなく、恋人に愛を誓っているだけだ。しかしそんなことを生徒の前で言っては威厳をなくすだけである。
「俺個人の性生活に興味を持つな」
「でも、実際聞けるのってこの場しかないかも……。後で大人の鬼に一から話を切り出すのって難しいし」
無陀野の印象では大人しかったはずの手術岾までそんなことを言い出す。気付けば、性的な話に尻込みしていると思われた女子まで無陀野を期待の目で見ている。ここは恥ずかしがっている場合ではないのだろうか。教育者として、身近な例を見せる場面なのだろうか。無陀野は覚悟を決め、長いため息をついた。
「俺は今も昔も愛した女一人しか抱いたことがない。鬼だからじゃなく、そいつしか抱く気にならないからだ」
これで満足しただろう。大層冷やかすのだろうと生徒達を見ると、彼らは何故か静まり返っていた。不思議に思って視線の先を辿ると、教室の出入り口が開いている。そこにいたのは事務員かつ無陀野の恋人である。今しがた言った、「愛した女」その人だ。教室には何か用があって訪れたのだろう。無陀野と彼女が付き合っていることは隠していたが、多分今の反応で知られてしまった気がする。何せ彼女は顔を真っ赤にして口を開け閉めしていたし、無陀野も無陀野で動揺している自覚があった。愛の言葉を本人に聞かれ、何も思わない無陀野ではない。
やってしまった。そう思ってももう遅い。少し遅れて口笛を吹く音が聞こえ、教室は盛り上がりを見せた。性教育の場が、いつの間にか無陀野の愛の告白の場になっている。これでも、生徒達にいい手本を見せたとして場を収められるだろうか。
無陀野は「後は自習だ」と言い、教室の出入り口に向かった。そこで慌てている恋人を捕まえ、適当な教室を目指して歩く。大人には大人の、性の時間がある。
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